おまけ 西条八十児童小説データ

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作品解説

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 今や西条八十のイメージといえば、詩人。カナリヤ、毬と殿様、かたたたきなどの童謡の作詞者。東京音頭、蘇州夜曲、トンコ節、芸者ワルツ、青い山脈、王将などのヒット曲の作詞者。あとは詳しい人でもアルチュール・ランボーの研究家ぐらいのイメージを持つ程度だろうが、もう一つの顔が児童書の作家である。
 ところが今では大量の児童向け小説を書いたことは忘れられ、研究者からはうそくさいと一言で片付けられ、『西条八十全集 第十二巻 少女小説』(国書刊行会)では後期の小説はまったく収録されてない。

 おそらく前期の作品が『花物語』『天使の翼』『古都の乙女』などまだ童謡の作詞者のイメージを匂わせるものを書いているのに、後期は『青衣の怪人』『幽霊の塔』『魔境の二少女』『人食いバラ』など題名といい中身といい「歌を忘れたカナリヤは」のイメージをぶち壊すためであろう。
 後期の作品がろくでもないのかといえばむしろ逆で、ストーリーテリングで読者をぐいぐい引っ張り、手を抜くどころか飽きさせまいといろいろな趣向をこらしている純文学には遠いが上質のエンターテイメントになっている。おかげでここ数年、古書市場で偕成社とポプラ社の西条作品は高騰している。特に『人食いバラ』はマニアのあいだで評判が高く2003年に復刊されて、某キャラの暴走ぶりに読んだ人はみな引き込まれたようだ。

 西条八十の作品は昭和十五年までの前期と戦後の後期で作風が大きく変わっている。前期は《少女倶楽部》での発表が圧倒的に多く、次いで《少女の友》が多い。
 雰囲気を知るために「花物語・ハムレットの幻(雛菊の巻)」(昭和十一年四月 少女倶楽部)の一部を挙げる。

 木谷さんの美しい姿、快活な、男性的な性格には、とうからあこがれていたのですが、今といふ今、その木谷さんの美しさは、憂鬱なハムレツトといふ性格を通して、輝くばかりの光を放つかと想はれました。
じつと見つめているれい子の長い睫毛には、いつしか感激の涙さへ光つていました。
「あんな人、あんなお兄さんが欲しい。」
 れい子の胸はもう火のやうになつて、ワナワナとふるへてゐました。
 やがて、菅野さんという容色自慢のひとが扮つたオフエリアと、ハムレツトとの会話がはじまりましたが、れい子の耳にはもうほかの言葉は何ひとつ聞えず、木谷さんのきれいな声が、春の牧場に聞える羊の首の銀鈴のように、桃いろの薄靄の世界から、たゞ遠く遠く聞えてくるだけでありました。

 かなり甘い雰囲気なのがわかるだろう。ちなみに作者は当時四五歳。酔いしれて書いているだけなら大量の作品は書けるわけがない。ここは《少女倶楽部》の読者のツボを押さえてるのであろう。事実、前期の作品は『美少女の逆襲―蘇れ!!心清き、汚れなき、気高き少女たちよ 』(唐沢 俊一/ネスコ発行/文藝春秋発売 )にあるところの当時の少女小説の傾向−服装はセーラー服にリボン、職業は花売り、信仰はキリスト教、病気は結核−をかなり高い点でクリアしている。実際、胸の病や肺病で登場人物を何人も殺している。

 面白いことに戦前の作品では登場人物がどんなに親しくなっても時代の風潮のためけっして恋愛感情ではなく思慕ということで片付けている。ちなみにキスシーン初登場は戦後の「死の巌」(昭和二四年 蝋人形新年号および2月3月合併号)。もっとも「死の巌」の文章や雰囲気をみると《少女倶楽部》の対象年齢十五歳より上らしい。《少女倶楽部》と同じ対象年齢となると、ライバル誌《少女の友》に昭和二六年連載の異色の西部物「アリゾナの緋ばら」で主人公パールが二丁拳銃のヒロイン(!)キャサリンが寝てる間にキスをし、キャサリンに熱を上げる他の娘と嫉妬の火花を散らしあう読んでるこちらがおいおいと思う百合の三角関係を書いている。

 一方戦後は江戸川乱歩の少年探偵団シリーズの影響で少年誌、少女誌で探偵物がブームになり、西条八十も《少女倶楽部》の「記者」の勧めで探偵物を書きだし、後期の作品はほとんど探偵物になった。
 ちなみに、少女戦隊物の元祖『あらしの白鳩』は主人公の三少女が拳銃をぶっ放し、敵も機関銃を使い、続編では手榴弾を部屋に放り込むシーンまである派手なもの。大正のころに「マンスの秘密」と「花束の秘密」という探偵物風の作品を書いているのでもとから好きなのであろうが、時代に合わせて自分の作風を変えられる器用な面は注目に値する。

 話は変わるが『二十四の瞳』の壷井栄の書いた「『少女小説』のことなど」(新日本文学 昭和二六年二月)の一部を挙げる。(これは壷井栄全集より得たもので雑誌を直接読んだものではない)

 一九四九年の春頃のことで「少女小説」専門のその出版屋は「少女小説」の書ける作家を洗いざらい動員したと思われるほど大ぜいの作家に「少女小説」を書かせ、私のところにも注文にきたのだった。少女小説はいくらだしても売れるといいながらその本屋は売れるコツを教えてくれた。お涙頂戴であるとこが第一の条件だが、結果は必ず幸福になること。作中に出てくる病人は肺病であること、怪我をした場合などは少女の同情をひく程度に悲惨さを避け、例えば松葉杖をつくなど。それで美しい物語をというのである。私は笑い出して首をふった。美しい物語はかきたいが、肺病や松葉杖がどうして悲惨でないのか。松葉杖の連想は戦争と切離しては考えられぬと私が言うと、そんな風に辛く考えずに書いてくれという。結局、私の作品集を読んでもらうことにして、そういう内容のものならということにした。本屋はそれっきり姿を見せなかった。

 この文のあとでも、いい作品が安易な作品のためにどんどん消えていくだの原稿の持ち込みにいった知人がこういう真面目なものは受けないからもっと馬鹿馬鹿しいものを書いてくれといわれただのと、現在のクリエーターが嘆いていることと全く同じことを書いている。
 要はいつの時代でもグレシャムの法則とスタージョンの法則は存在するということだ。ただクズとみなす作品が別の価値観を持つことや、次世代への原動力になる場合があるのも事実だ。事実戦前のマンガを読んでもこれで昭和三十年代中頃に子供の読み物の主役が小説からマンガに入れ替わるとはとても思えないのだから。

 『西条八十著作目録・年譜』(昭和四七年 中央公論事業出版)には「昭和二二年から二三年にかけて、八十の執筆にかかる少女小説類の数多いのは、新居購入の借金返済のためである」とあり、『夕月乙女』では主人公の正子が松葉杖をつくシーンがあるので、この出版屋の名前がわからないのが残念だが西条八十のところにも来た可能性は高い。こうしてみると西条八十は手っ取り早く金を稼ぐため少女小説を書いたのは確かだが、読むと手は抜いてない。

 八十が書く後期の探偵物の作風は次から次へと事件がおき、読者を問答無用でジェットコースターに乗せてしまう感がある。ただこの手法はアイデアの消耗がはげしいため、過去作で使ったパターンが混じることがあり、昭和30年代になると残念ながら作品の勢いが落ちてしまう。また子供の読み物の主流が小説からマンガにかわり、西条作品に限らないが単行本化されなくなってしまう。とうとう「悦子のぼうけん」「ばけもの紳士」では過去作の焼き直しどころか、キャラの名前をかえただけの手抜きをしてしまった。最終作「笛をふく影」になると、対象読者年齢が十一歳と低くページ数の制限があるものの出来映えはひどかった。悪役は犯罪者の弁護で儲ける悪徳弁護士。過去に弁護した人間に恩を着せただで用心棒としてこきつかう悪役のカリスマに欠けるせこい人物。物語の前半でふった伏線は最終回のキャラの会話のなかでけりをつける荒っぽいもの。「こんなもの書かないでくれ」といいたくなる出来映えであった。
 でも全盛期の作品は今読んでも面白く、「人食いバラ」のみならず、他の作品の復刊を願っている。



西条八十児童小説リスト(不完全)
このリストは 密室系に掲載されているものと同じです。

このリストでは翻訳、物語詩、絵物語、童話は除外してある。
『西条八十全集 第十二巻 少女小説』の解説で少女小説とあった「破片」(昭和4年4月 令女界)と「夜の銀座」(昭和4年4月 若草)は実物を確認したところ大人向けのためリストから除外。

「島流しの犬」(大正10年10月 日本少年)(『アイアンの島廻り』内田老鶴圃 大正12年に収録)があるが童話とみなし除外。

「鬼大佐と山賊」(昭和13年9月、10月 日本少年 雑誌廃刊のため中断)は『勇将ジェラール』の簡訳のため除外。当時は許されたのだろうが雑誌には西条八十作とありコナン・ドイルの名は全く出てこない。

「涙ぐましい親切」(昭和2年2月 少年倶楽部)は随筆のため除外。

「仰げ護国の花‐靖国神社に祀られている女神」(昭和13年5月 少女倶楽部)は伝記のため除外。

「花ものがたり(桃の花)」(少女倶楽部 昭和11年1月)は『西条八十著作目録・年譜』では小説となってるが随筆のため除外。また『西条八十著作目録・年譜』では『少女小説西條八十選集第二巻』に集録とあるが誤記である。

「病める薔薇」(昭和4年7月 令女界)と「美しき家族」(昭和6年7月 令女界)と「鈴蘭の女」(昭和13年7月 講談倶楽部)は未確認。

「大ゴリラと闘う」(昭和25年4月号 少年画報)、連載「燃える真珠」5(昭和8年6月号 少女画報)があるらしいが未確認。

「花束の秘密」(大正10年4月 童話)(『西條八十全集 第6巻 童話1』国書刊行会に集録)は実質的に小説だが作者が童話としているためリストから外す。

青字は実物を確認したもの。緑字は実物を一部確認したもの。
1はかなき誓1924(大正13) 3/1 少女倶楽部 注1
2マンスの秘密1924(大正13) 8/1 少女倶楽部〜14年2/1
3謎のレコード1927(昭和2)4月 日本少年
4支那少年と唐饅頭 −旅日記から−1927(昭和2)8月 日本少年 注2
5病めるカナリア1927(昭和2)11/1 少女倶楽部
6国境の少女1929(昭和4)8/1 少女倶楽部
7小指の許嫁指輪1930(昭和5)7月 少女の友 臨時増刊号
8幸福の丘1931(昭和6)1/1 少女倶楽部 注3
9孝女白菊1933(昭和8)10/1 少女倶楽部 別冊付録 注4
10巡礼お鶴1934(昭和9)5/1 少女倶楽部 別冊付録 注5
11三吉馬子歌1935(昭和10)1/1 少女倶楽部 別冊付録
12静寛院宮(せいくわんゐんのみや)1935(昭和10)8/1 少女倶楽部 別冊付録
13花物語・永遠の花(ヒヤシンスの巻)1936(昭和11)3/1 少女倶楽部 注6
14花物語・ハムレットの幻(雛菊の巻)1936(昭和11)4/1 少女倶楽部
15静御前1936(昭和11)4/1 少女倶楽部 別冊付録 注7
16花物語・悲しみのマリア(木蓮の巻)1936(昭和11)5/1 少女倶楽部
17花物語・思いでの詩集(勿忘草の巻)1936(昭和11)6/1 少女倶楽部
18花物語・湖畔の乙女(百合の巻)1936(昭和11)7/1 少女倶楽部
19獣の大将1936(昭和11)11月? 小学二年生〜12年3月?
1937(昭和12) 小学三年生4月号?〜? 注8
20花物語・白菊の歌(白菊の巻)1936(昭和11)12/1 少女倶楽部 注9
21花物語・椿の墓(椿の巻)1937(昭和12)1/1 少女倶楽部
22花物語・雪崩と薔薇(薔薇の巻)1937(昭和12)2/1 少女倶楽部
23花物語・新月のちかい(雛罌粟の巻)1937(昭和12)3/1 少女倶楽部
24天使の翼1937(昭和12)4/1 少女倶楽部〜13年12/1 注10
25水郷の唄1937(昭和12)7/15 少女倶楽部 臨時増刊号 注11
26二輪のさくら1938(昭和13)2/1 少女倶楽部 注12
27涙のアヴェマリア1938(昭和13)4月 少女の友 春の臨時増刊号 注13
28南の渡り鳥1938(昭和13)5/15 少女倶楽部 臨時増刊号 注14
29古都の乙女1938(昭和13) 少女の友4月号〜14年5月号
30笛の音1938(昭和13)9月 少女の友 夏休み増刊号 注15
31牧場日記1938(昭和13)10/15 少女倶楽部 臨時増刊号 注16
32荒野(あれの)の少女1939(昭和14) 少女倶楽部1月号〜15年5月号 注17
33グリーンの服地1939(昭和14)4月 少女の友 春の増刊号
34海は悲し1939(昭和14) 少女の友 夏の増刊号
35秋の幻想1939(昭和14)11月 少女の友
36春の流れ1940(昭和15)4月 少女の友
37フリージヤ物語1948(昭和23) 白鳥(はくちょう)1月号 注18
38虹の孤児(みなしご)掲載誌不明
39風車売の娘1949(昭和24)小学四年生1月号〜3月号
1949(昭和24)小学五年生4月号〜10月号
40悪魔博士1949(昭和24) 東光少年1月号〜1949(昭和24) 東光少年8月号  注19
41悲しき草笛掲載誌不明  注20
42夜霧の乙女掲載誌不明
43青い洋館掲載誌不明 注21
44夕月乙女掲載誌不明 注22
45湖畔の乙女掲載誌不明 注23
46級(クラス)の明星掲載誌不明
47死の巌1949(昭和24)蝋人形新年号および2月3月合併号
48狂える演奏会1949(昭和24)4/1 蝋人形
49潮風よ涙あらば1949(昭和24)5/1 蝋人形5月6月 合併号 注24
50奇怪な贈物1949(昭和24)7月 天馬(ペガサス)
51マリア人形1949(昭和24) 少女8月号
52長崎の花売娘1949(昭和24) 少女ロマンス8月号〜25年9月号
53狂えるピアニスト1949(昭和24)10/10 単行本書下ろしか 作品48の改作
54マドレエヌの人形
‐パリのクリスマスの想い出‐
1949(昭和24)12月 少女の友 注25
55白百合の君掲載誌不明 注26
56アパートの秘密1950(昭和25) 少女クラブ1月号〜3月号 注27
57湖底の大魔人1950(昭和25) 東光少年1月号?〜? 注28
58にじの乙女1950(昭和25)女学生の友4月号〜26年3月号 注29
59スペードの女王1950(昭和25) 少女4月号  注28
60アルプスの虹1950(昭和25) ひまわり 臨時増刊号(少女小説特集)
61少女詩人1951(昭和26) 少女ロマンス正月号〜6月号(中断) 注30
62アリゾナの緋薔薇1951(昭和26) 少女の友4月号〜27年7月号 注31
63青衣の怪人1951(昭和26) 少女クラブ1月号〜12月号 注32
64しあわせの谷1951(昭和26) よいこ三年生1月号〜8月号
65幽霊の塔1952(昭和27) 少女クラブ1月号〜12月号 注33
66魔境の二少女1952(昭和27) 少女の友8月号〜28年10月号 注34
67あらしの白鳩1952(昭和27) 女学生の友9月〜29年9月(第一部)
1954(昭和29)10月〜31年7月(悪魔の家の巻)
1956(昭和31)8月〜33年2月(黒頭巾の巻)
1958(昭和33)4月〜34年5月(地獄神の巻)
1959(昭和34)年6月〜35年9月号(パリ冒険の巻) 注35
68人食いバラ1953(昭和28) 少女クラブ1月号〜12月号
69幽霊やしき1954(昭和29) 少女クラブ1月号〜12月号
70なぞの紅ばら荘1954(昭和29) 少女5月号〜30年5月号
71流れ星の歌1955(昭和30) 少女クラブ1月号〜12月号
72わかれ道1955(昭和30) 幼年クラブ1月号〜12月号
73母をよぶ時計1955(昭和30) 小学四年生4月号〜31年3月号
74さく花ちる花1955(昭和30) 少女ブック9月号〜31年12月号
75ターザンものがたり1955(昭和30) 小学三年生4月号〜31年3月号
1956(昭和31) 小学四年生4月号〜32年3月号
1957(昭和32) 小学五年生4月号〜12月号 注36
76怪獣やしき1956(昭和31) ぼくら1月号〜7月号(中断) 注37
77怪魔山脈1956(昭和31) おもしろブック1月号〜32年7月号
78すみれの怪人1956(昭和31) 少女クラブ1月号〜32年6月号 注38
79青いとびら1956(昭和31) 少女クラブ夏休み増刊号 注28
80魔法つかいニコラ博士1957(昭和32) こども家の光1月〜34年3月号 注39
81赤い影ぼうし1957(昭和32) 少女クラブ7月号〜33年8月号 注40
82悦子のぼうけん1958(昭和33) 小学三年生4月号〜34年3月号
1959(昭和34) 小学四年生4月号〜6月号 注41
83ばけもの紳士1958(昭和33) 小学五年生4月号〜34年3月号 注42
84青空わかさま1958(昭和33) たのしい四年生4月号〜12月号
85黒いなぞのかぎ1959(昭和34) 中学生の友一年9月号〜35年3月号
1960(昭和35) 中学生の友二年4月号〜10月号
86笛をふく影1960(昭和35) なかよし1月号〜11月号

注1
『西条八十著作目録・年譜』(昭和47年6月1日 中央公論事業出版)では「はかなき誓ひ」とあるが雑誌を確認したところ「はかなき誓」であった。

注2
雑誌目次では題名は「唐饅頭」。

注3
雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。

注4
昭和13年4月に作曲佐々華紅、歌手豆千代の歌謡曲「孝女白菊」(コロムビア)の作詞をしている。
昭和17年8月に作曲服部良一、歌手霧島昇の歌謡曲「孝女白菊」(コロムビア)の作詞をしている。
幼年ブック 昭和28年9月に物語詩「白菊ものがたり」を書くが未確認のため関連性は不明。
この話は明治21年、国文学者落合直文が東大教授井上哲次郎博士の漢詩を新体詩として書き直した「孝女白菊」が元になっている。
仔細はhttp://www2.ocn.ne.jp/~woodp/kouzyo.htmlを参照。

注5
昭和12年5月に作曲佐々華紅の歌謡曲「巡礼お鶴」(コロムビア)の作詞をしている。
少女倶楽部 昭和4年10月および昭和5年9月に詩「巡礼お鶴」を発表。

注6
少女倶楽部 昭和11年1月に「花ものがたり(桃の花)」を書いているが随想であり花物語シリーズと関係なし。ただし少女倶楽部では「次号に続く」とシリーズ物のように扱っている(次号には何も掲載なし)。先月まで「私の好きな詩から」という随想を連載しその流れをくんでいたのが編集部の意向か作者の都合か随想から小説に変わったとみえる。結果「花ものがたり(桃の花)」は『花物語』のどの版本にも未集録となった。
余談だが「私の好きな詩から」では二度にわたり当時無名の金子みすゞを取り上げた。金子みすゞが詩を投稿したのがきっかけで西条八十と手紙を交わすようになり、九州へいくときに会わないかと電報を打ったところ駅で赤ん坊を背負った金子みすゞに五分だけ最初で最後に会ったというみすゞファンおなじみのエピソードに触れている。

注7
『講談社の絵本 静御前』1939(昭和14)とは別物。

注8
『西条八十著作目録・年譜』には触れられていないが実在する作品。
1954(昭和29) 幼年ブック?月号〜12月号に「けものの大しょう」の題で再掲載。

注9
コロムビアの依頼でアメリカ行きし、さらにベルリンオリンピック特派員の依頼を新聞社から受け前作より数ヶ月のブランク。
なお1936(昭和11)少女倶楽部8月号の「外遊に際して読者諸姉へごあいさつ」では「『待宵草』の巻でわたくしとしても力を入れて筆をとってまゐりました最中」とあるが次回作は白菊の巻であり、題名変更か没にしたものと思われる。また直前の11月号には「西條八十先生からお土産話をきく會」というインタビューが掲載された。

注10
初の長編で『花物語』とならぶ西条八十の前期の代表作。昭和12年少女倶楽部3月号の予告では、

○これこそ、讀む人必ず泣く、美しき愛と清らかな涙の物語です。
○皆様あこがれの西條八十先生が、日本中の少女方のために、特に少女倶樂部に執筆される大長篇小説です。
○これを讀むことは、少女の誇(原文ママ)であり幸福であり、萬人皆胸を躍らして愛讀されるでありませう!

おゝ喜びの日近し!
少女の皆様が待ちかねていた西條八十先生の長篇小説がいよいよ(原文繰り返し記号)始ります。西條先生も非常な意氣込みでお書き下さいます。どうぞどうぞお友達みんなに、このことをお話して四月號の出るのを待ってゐてください。

とまである。なお昭和13年少女倶楽部2月号には、

愛讀者諸嬢へ
今度の『天使の翼』はいつもよりたいへん短くてすみません。皇軍の南京入城式に列するため、急に支那へ旅行しましたので、ゆっくり筆を執る時間が無くなりました。この次は埋合せにきっと長く書くことをお約束します。
西條八十

と時代を感じさせる断りがあった。
少女ブック昭和26年9月号(創刊号)〜27年3月号?にダイジェスト版掲載。

注11
雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。副題に「花物語 あやめの巻」とあるが『花物語』の単行本のどの版にも掲載されていない。

注12
この作品の作中詩が昭和13年2月軍歌「同期の桜」(コロムビア)の元となった。

注13
少女の友の目次では題名は「涙のアベマリア」だが作品の扉絵やノンブルのそばには「涙のアヴェマリア」とある。

注14
雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。

注15
「少女の友」昭和13年7月号にも同題の随筆を書いてるが未確認のため関連は不明。


注16
雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。「花も嵐も」(花嵐社)に再録。

注17
『西条八十全集 第十二巻 少女小説』(国書刊行会)の解説では「あれののをとめ」とルビが振ってあるが、雑誌を確認したところ「あれののせうぢよ」であった。
内容を詰めないまま書き出したのか、主人公が荒野にいたのは最初の二話だけ。また誘拐されてサーカスに売り飛ばされた少年ネタなど、前回同じ「少女倶楽部」に書いた『天使の翼』より古い印象。横山美智子の『嵐の小夜曲(セレナーデ)』にも旅芸人に誘拐された少女が出てくるが、誘拐されてサーカスは昔の少女小説のはやりネタ。

注18
雑誌目次にはフリーヂヤ物語、扉絵にはフリージア物語。38「虹の孤児」の原型らしい。ちなみに主人公に会う映画女優の名は高稲秀子。

注19
『西条八十全集 第十二巻 少女小説』(国書刊行会)の解説では昭和23年1月より連載開始とあるが、東光少年の創刊は昭和24年1月のため変えておく。

注20
単行本出版より後に「少女ブック」昭和27年9月号〜28年6月号に連載。

注21
43「青い洋館」と45「湖畔の乙女」は同じ主人公。ただし「青い洋館」では泉マリ子、「湖畔の乙女」では泉毬子と書かれている。これは単行本で確認したもので雑誌掲載時の書き方は不明。両方の話を集録した『少女小説西條八十選集第一巻』でもマリ子と毬子で不統一。数々の事件を解決しているがその話はおって説明するとあるところをみると、シリーズ化の構想があったようだ。

注22
昭和17年5月に作曲古賀政男、歌手李香蘭の歌謡曲「夕月乙女」の作詞をしている。
また小学四年生 昭和31年4月〜昭和32年3月にダイジェスト版の「夕月少女」が連載された。作者の「三井ふたば子」は西条八十の長女。ただページの制約で夕月乙女の登場人物の持ち味が出ておらず、内容からはなぜ題名が「夕月少女」なのか解らなくなってしまった。

注23
昭和17年12月に作曲早乙女光、歌手菊池章子の「湖畔の乙女」(コロムビア)の作詞をしている。昭和18年の松竹映画「湖畔の別れ」の主題歌。

注24
連載だったが雑誌廃刊のため一話で中断。

注25
『西条八十著作目録・年譜』では随想とあるが小説であった。
この作品の前に、久々に「少女の友」昭和25年5月号〜12月号にジャンヌ・ダルク、キュリー夫人などを扱った名作詩物語を連載。

注26
主人公滝百合子の父の名が最初に出てきた手紙では滝五郎なのに、後半では滝山三になってる。西条センセのチェック漏れであろう。

注27
この作品の前、久々に「少女クラブ」昭和24年12月号に物語詩「ジュリエットの衣装」を発表。
この「アパートの秘密」をはじめ単行本で読んで一寸単純な話だと思ったら、むべなるかな。雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。これでは単なる小説より字数制限があるだろうし。

注28
『西条八十著作目録・年譜』には触れられていないが実在する作品。

注29
連載中の題名は「にじの乙女」だが単行本化したときには「虹の乙女」。ちなみに第一話は女学生の友創刊号に掲載。最終回は花物語の一短編と同じ展開である。
未確認だが「りぼん」昭和31年1月号〜9月号江川みさお・画による絵物語「にじのおとめ」を連載。

注30
7月号掲載無し、8月号掲載予告あれど掲載無し。少女ロマンスは8月号が最終号。

注31
連載中の題名は「アリゾナの緋薔薇」だが単行本化したときには「アリゾナの緋ばら」。第一話に「西條先生お得意の西部小説が始ります!!」とあるが、主人公パールと二丁拳銃の名手キャサリンの登場する最初で最後の異色の西部物。

注32
単行本前書きによると少女クラブの「記者」の勧めで書いた初の探偵物。血なまぐさいこと残酷なことをさけたとあるが、性にあったらしくこの時期から作風が過激になってくる。
また昭和41年なかよし9月号〜42年12月号にダイジェスト版が掲載された。「原作西条八十」とあるが昭和41年なかよし8月号の予告を見ると西条八十が執筆したらしい。これは雑誌では挿絵と文が半々の文字で書いたマンガという扱いのためであろう。挿絵は石原豪人。

注33
昭和43年なかよし1月号〜10月号にダイジェスト版が掲載された。「原作西条八十」とあるが西条八十が執筆したらしい。これは雑誌では挿絵と文が半々の文字で書いたマンガという扱いのためであろう。挿絵は糸賀君子。

注34
この話を読みなぜ南米にゴリラが出ると思ったが、57「湖底の大魔人」(東光少年 昭和25年3月号)を呼んで納得した。舞台が南米とアフリカ、主人公が二少女と少年であるほかは同じ筋書きであった! 従者の名前はどちらも黒獅子だし。すごく安易である。まあ話は面白いんだけど(ってフォローになってないか)
なお『西条八十著作目録・年譜』では連載開始が少女の友5月号とあるが雑誌を確認したら8月号であった。

注35
女学生の友27年8月号の予告では「赤いカーネーション(仮題)」とある。「第一部」は便宜上こちらで勝手に名づけただけで雑誌では何も書かれてない。また「悪魔の家の巻」は号によって題名が「あらしの白鳩」「続あらしの白鳩」ところころ変わっている。30年7月号のみ別冊付録「冒険小説あらしの白ばと特別大会」になっている。
話の内容は嵐のようなつらい運命にさらされる白鳩のような純情な少女の物語、とういうのはまったくのウソで 日高ゆかり率いる白ばと組の三少女が拳銃をぶっ放し悪と戦い、敵も機関銃まで持ち出す派手な話。ちなみに敵キャラは役者の市・のど切りの李・上海のお蘭・・・。ウーム。もしかして少女戦隊物の元祖?
悪魔の家の巻以後は白ばと組の吉田武子の活躍が目立ち、最後のパリ冒険の巻では登場する白ばと組は吉田武子だけであった。

注36
この連載の前に翻訳で『ターザン物語 第1 出生の巻』と『ターザン物語 第2 帰郷の巻』(共にE.R.バローズ作、昭和29年 生活百科刊行会)がある。
小学四年生31年4月号より「ターザン物語」と改題。
また少学四年生 昭和30年2月特別号付録として『ターザンの冒険』(E.R.バローズ作)の翻訳をしている。これは「ターザンものがたり」と同じ設定だが別作品。

注37
最後の「ぼくら」31年7月号では「8月号に続く」とあるが以後説明のないまま掲載されず。同時期他の雑誌には執筆しているので体調不良が原因ではありえず、話を作り上げてから執筆するタイプのため展開につまったものとも思えず。
なおこの話は67「あらしの白鳩(パリ冒険の巻)」に無駄なくそっくり使われた。

注38
31年12月号のみ別冊付録。

注39
この連載の前に翻訳で『魔法医師ニコラ』(G.ブースビー作、昭和30年 世界大衆小説全集第一期第七巻 小山書店)があるが、この連載との関係は不明。

注40
主人公は78「すみれの怪人」と同じ扇谷町子とすみれのジョオ。
この作品を最後に長いこと書いてきた「少女クラブ」を離れた。断定できないが小説よりマンガが増えてきた「少女クラブ」の編集方針かもしれない。

注41
キャラの名前が違う程度で45「湖畔の乙女」と同じ内容。

注42
キャラの名前が違う程度で40「悪魔博士」と同じ内容。

単行本リスト
タイトル出版社 発行年月日収録作品
1純情詩話花物語大日本雄弁会講談社 昭和12年5月7日13,14,16〜18,20〜23 注43
2 荒野(あれの)の少女大日本雄弁会講談社 昭和15年4月20日
同盟出版社 昭和22年4月30日
東光出版社 昭和24年7月20日
ポプラ社 昭和27年11月30日
ポプラ社 少女小説文庫4 昭和38年1月10日
30
3天使の翼壮年社 昭和16年6月10日
東光出版社 昭和22年10月31日
偕成社 昭和29年6月20日
24 注44
4白菊の歌同盟出版社 昭和17年4月1日9,12,15
5古都の乙女同盟出版社 昭和17年6月1日
ポプラ社 昭和27年5月31日
東光出版社 昭和25年1月25日
29
6虹の孤児(みなしご)東雲堂新装社 昭和22年12月20日
ポプラ社 昭和29年5月31日
38
7悲しき草笛東光出版社 昭和23年4月30日
ポプラ社 少女小説名作全集3 昭和35年10月25日
ポプラ社 ジュニア小説シリ−ズ13 昭和42年11月30日
ポプラ社 昭和28年3月31日
41
8白菊物語日本図書通信社 昭和23年7月25日
大泉書店 昭和24年頃
9〜11 注45
9夜霧の乙女東光出版社 昭和23年11月10日
ポプラ社 昭和29年11月25日
42
10夕月乙女東光出版社 昭和23年12月5日
ポプラ社 昭和29年10月5日
44
11青い洋館東雲堂新装社 昭和23年12月20日43
12湖畔の乙女東光出版社 昭和24年1月15日
ポプラ社 昭和29年8月1日
45
13花物語東光出版社 昭和24年10月10日13,14,16〜18,20〜23,37,51,53 注46
14白百合の君東光出版社 昭和24年11月1日
ポプラ社 昭和29年11月5日
55
15悪魔博士東光出版社 昭和25年2月5日
偕成社 昭和28年10月15日
40
16級(クラス)の明星東光出版社 昭和23年8月15日
ポプラ社 昭和28年6月25日
ポプラ社 少女小説文庫11 昭和39年8月20日
46
17少女小説西條八十選集第一巻東光出版社 昭和25年9月20日10,43,45,46
18少女小説西條八十選集第二巻東光出版社 昭和25年9月25日11,13,14,16〜18,20〜23,37,44,47,51,53 注47
19長崎の花売娘偕成社 昭和25年12月30日52,56,60
20虹の乙女ポプラ社 昭和26年5月20日58
21少女小説西條八十選集第三巻東光出版社 昭和26年6月1日8,24,41
22青衣の怪人大日本雄弁会講談社 少年少女評判読物選集 1 昭和27年1月15日
偕成社 昭和30年9月20日
偕成社 ジュニア探偵小説17 昭和44年9月20日
64
23幽霊の塔偕成社 昭和28年8月25日
偕成社 ジュニア探偵小説15 昭和44年9月20日
43,65
24人食いバラ偕成社 昭和29年1月20日
ゆまに書房 カラサワ・コレクション 少女小説傑作選1 平成15年11月1日
48,68
25魔境の二少女偕成社 昭和29年2月25日66
26花物語偕成社 昭和29年4月20日13,14,16〜18,20〜23,39
27アリゾナの緋ばらポプラ社 昭和29年8月10日62
28あらしの白鳩偕成社 昭和29年10月25日67 注48
29幽霊やしきポプラ社 昭和30年1月20日69
30日本少年少女名作集第二十巻・西条八十集河出書房 昭和30年4月30日29,63 注49
31謎の紅ばら荘ポプラ社 昭和30年5月5日5,35,51,70
32流れ星の歌ポプラ社 昭和31年1月15日71
33西条八十全集 第十二巻 少女小説国書刊行会 平成5年4月30日2,10,13,14,16〜18,20〜23,29,33,35,36,53
少女小説西條八十選集第四巻(虹の孤児、荒野の少女、死の巌)
少女小説西條八十選集第五巻(白百合の君、古都の乙女)
は刊行予定のみで出なかった模様。なお四巻の死の巌は二巻に収録されている。

注43
小説のほか、詩(すずらんの歌、国歌「桜」、花うり娘、ピヤノと桜草、梅の咲くころ、紅薔薇、すみれ咲く頃)を収録している。

注44
壮年社版は昭和16年6月に出たが8月にはもう16刷がでている。
雑誌と戦前の壮年社版にたいし戦後の諸版では三点変更された。
主人公柏真弓が家出したあと一家が満洲に転勤するが、戦後版では北海道に書きかえられた。要は満洲だろうが北海道だろうが真弓が簡単に会えない場所の謂いであろう。ちなみに『怪人二十面相』でも満洲国から帰ってきた明智小五郎に二十面相扮する外務省の辻野が会いに来るが、戦後の版本では満洲国が某国になっている。
他にも宝山歌劇団に入った真弓が出し物のため「可愛らしい獨逸の年に扮してナチスのKい團服」を着たが、戦後版ではそこの個所は省かれた。
一番大きな変更箇所として真弓がペンギン洋品店で池見房子を助ける話があるが、戦後の版本では池見房子が完全に登場しなくなったため三十ページ強削られた。
また妹の名前は雑誌と壮年社版が倭文子(しづこ)、東光出版社版と『少女小説西條八十選集第三巻』がしづ子、偕成社版がしず子。

*未確認情報だが少年講談社(仔細不明)からも出ているらしい。


注45
『西条八十全集 第十二巻 少女小説』の解説では12「静寛院宮」を収録しているとあるが、実物を確認したところ未集録。

注46
こちらで確認した東光出版社版『花物語』昭和22年10月31日には37「フリージヤ物語」、51「マリヤ人形」、53「狂えるピアニスト」は未収録。これは『西条八十全集 第十二巻 少女小説』の解説より得た情報だが、収録している版本がある可能性もありリストに挙げておく。

注47
収録された37「フリージヤ物語」、51「マリヤ人形」、53「狂えるピアニスト」は「花物語」のシリーズになり、それぞれに「ふりーじや」、「百日草」、「すみれ」の副題がついた。

注48
連載終了は女学生の友昭和35年9月号だが単行本は昭和27年9月〜29年9月の分だけを掲載した。

注49
他に少女純情詩集を集録。


作品解説



はかなき誓
幽霊の塔
人食いバラ
天使の翼
悲しき草笛
長崎の花売娘
荒野の少女
あらしの白ばと
花物語





はかなき誓

デビュー作

少女倶楽部 大正13年3月号
単行本未収録

デビュー作ということで紹介しておきます。

 泰子は、友人や妹から最近自分にそっくりな人を見たといわれるようになっ
た。疑問に思いつつも会ってみたいと思っていたある日のこと、街でその相
手に出会ってしまう。容姿はうりふたつなうえ、着ている物まで同じなため
二人は驚くばかりであった。
 相手の名前は河野かをる。昨年の関東大震災で下町から引っ越してきたの
だという。泰子とかをるはこの偶然に喜び、「いいお友達になりましょう」
と互い指輪を交換するのであった。

大正13年の少女倶楽部なんてまず見ることができないでしょうから、結末
を書きます。
(ネタバレ開始)
 そこへ不意に突っ込んできたトラックに跳ね飛ばされる二人。泰子の妹が
慌てて駆けつけたが、二人はこときれていた。顔も服も同じため、どちらが
どちらか判らず、周りの人々は困り果てたが、指輪だけが違うことに気付い
た。
 こうして泰子とかをるは間違って互いの家の墓に葬られることになった。
それでも、二人は天国で仲良くしていることだろうと話は結ばれる。
(「当時だって指紋鑑定はできるだろ」とつっこんではいけない)

(ネタバレ修了)

 ほのぼのな話といっていいのか? まあ昔の作品だし。


幽霊の塔

黒岩涙香風のサスペンスと冒険



昭和27年少女クラブ1月号〜12月号連載

単行本
左から
偕成社 昭和28年8月25日
偕成社 ジュニア探偵小説15 昭和44年9月20日
(両書とも幽霊の塔の他に青い洋館を集録)

 十五歳の三上秀子は勤め先の工場閉鎖で職を失った矢先、オカルト研究家
近藤俊二の幽霊屋敷の情報を求める新聞広告を見る。亡き母がくれた暗号文
と幽霊屋敷につながりを予感した秀子は近藤俊二に助手として雇ってもらい、
折り良く入った幽霊屋敷の情報をもとに調査に出ることとなった。
 秋田の幽霊屋敷はその名に恥じず、二人が着いた日から人間の倍の大きさ
の顔の化け物が窓から二人を覗きこみ、いつのまにか犬の惨殺死体が部屋に
持ち込まれ、次の日には犬の死骸はおろか血痕まで消えているのだ・・・

 一言でいえば黒岩涙香、江戸川乱歩の『幽霊塔』の西条八十風バージョン。
(時計塔の緑色の隠し扉の仕掛けなどそのまんまだし)
 作者が過去の作品で何度か使ったパターンはあるものの、薄幸の少女に次
から次へと事件がおき、読者を飽きさせないよう工夫してある。オリジナル
色が強い。復刊を願う1冊である。



人食いバラ

問答無用の暴走作品



昭和28年少女クラブ1月号〜12月号連載

単行本
偕成社 昭和29年1月20日(右)
ゆまに書房 カラサワ・コレクション 少女小説傑作選1 平成15年11月1日(左)
(両書とも人食いバラの他に狂える演奏会を集録
ゆまに書房は中西みちおのマンガ《仮面の部屋》を収録)


 身寄りのない毛糸売り加納英子が屋敷の前をとおりかかると、奇妙な申し
出を受けた。主人の元男爵は余命少なく財産を譲る相手もいないので、この
日のこの時間に家の前を通りかかった英子に譲りたいというのだ。面食らう
英子をよそに手続きは進められた。
 ところが元男爵には姪の小森春美がいた。財産をもらえるあてがはずれた
春美は表向きは英子と仲良くしながら、殺してしまおうとした。はじめは車
でひき殺そうとして失敗。次は精神病院から殺人鬼を脱走させて英子を襲わ
せるが邪魔が入り失敗。こうして春美の殺人計画はエスカーレートしていく
のであった。

 復刻され高い評価を得ているこの作品。西條作品の後期の傑作だが、図書
館で見たオリジナルは初版。たった一度ネットオークションにでた本も初版。
どうも重版されなかったらしい。偕成社から少年物といっしょに出されてし
まい、少女が主人公のため浮いてしまったことと、内容の過激さのためかも
しれない。
 昭和28年少女クラブ1月号を読んだら、リボンの騎士の連載が始まり、長谷
川町子の「私は車掌」(主役は性格といい顔といい髪形を変えたサザエさん)
にまじって、このアナーキーな小説が載っているのに軽いめまいを覚えたぐら
いだし。

 一つ間違えると怪作になるとことを上手くコントロールしているのだが、
次から次へとすさまじいアイデアと行動力を発揮する春美のキャラが強烈で、
読んでいるうちにワクワクしてしまった。「英子ピンチ!」と思うどころか、
「春美は次にどんなことをするんだろう」との期待のほうが強くなってしまっ
た。本を読み終えたときには「終わっちゃうの! もっと春美の活躍が読みた
かった」と思ったぐらいだ。西条先生ってサディスト?



天使の翼

紅涙物の戦前の代表作



少女倶楽部 昭和12年4月号〜13年12月号

単行本
壮年社 昭和16年6月10日
東光出版社 昭和22年10月31日(右)
東光出版社 少女小説西条八十選集第三巻 昭和26年6月1日(左)
偕成社 昭和29年6月20日


 十五才の柏真弓は日ごろ母からの冷淡な仕打ちを悲しくも不思議に思っていた。
そんなある日、寝ていたときに両親の争いを聞き、自分が本当は父の妹の娘であっ
たことを知りショックを受ける。
 そして思い出したのがばあやが幼いころの自分に覚えさせた歌。

お星がちらちら、ゆうかりの
葉音がさらさら、鳴る濱で、
いとし母さん泣きながら
白いお船で波の上・・・
こどもは乳母[ばあや]におんぶして、
お船の汽笛を聴きました、
いとし母さん泣いたとて
落ちる涙も波の上


 乳母なら本当の母のことを知っているはずと考え、黙って家を去ることとなる。
 ところが福島の昔の住所尋ねたものの乳母は転居で行方知れず。途方にくれる真
弓は人買いに騙され巷で歌をうたい金を稼ぐ日々となる。そんな日々、同じく人買
いにとらわれた少年の機知で人買いから逃げ出し、白百合音楽園の柳沢晴衛に才能
を見こまれ学院で暮らすこととなる。そして宝山歌劇団のトップスター月夜福子と
出会いにより、真弓は紆余曲折の末、宝山歌劇団のスターへの道を歩み出すのであっ
た。
(月夜福子は往事の宝塚スター小夜(さよ)福子がモデル)

 西条作品の主人公には十五才の少女が多いが、作者の趣味ではなく《少女倶楽部》
の読者年齢なのだろう。
 あらすじからも分かるとおり、ベタで古い古いお話。でも肉がすっかり腐って骨
だけの状態になってしまったので、化石を愛でるような楽しさがある。
不幸と幸福が交代で押し寄せ、80年代の大映ドラマシリーズのよう。戦後の作品
にもある読者をジェットコースターに強制的に乗せるようなストーリーテリングは
このころからあった。

 西条八十の初長編であり、作者の意気込みも感じられる。また編集部も期待して
いたようで、昭和12年少女倶楽部3月号の予告では、

○これこそ、讀む人必ず泣く、美しき愛と清らかな涙の物語です。
○皆様あこがれの西條八十先生が、日本中の少女方のために、特に少女倶樂部に執筆される大長篇小説です。
○これを讀むことは、少女の誇(原文ママ)であり幸福であり、萬人皆胸を躍らして愛讀されるでありませう!

おゝ喜びの日近し!
少女の皆様が待ちかねていた西條八十先生の長篇小説がいよいよ(原文繰り返し記号)始ります。西條先生も非常な意氣込みでお書き下さいます。どうぞどうぞお友達みんなに、このことをお話して四月號の出るのを待ってゐてください。


とまであり、毎月の話の後には「真弓の部屋」というコーナーを作り読者の感想を
紹介していた。
 二年近くも連載し、読者の反応もよかったとみえるが、単行本になったのは連載
が終わって二年半後のこと。

 昭和13年少女倶楽部2月号には、

愛讀者諸嬢へ
今度の『天使の翼』はいつもよりたいへん短くてすみません。皇軍の南京入城式に列するため、急に支那へ旅行しましたので、ゆっくり筆を執る時間が無くなりました。この次は埋合せにきっと長く書くことをお約束します。
西條八十


と時代を感じさせる断りがあった。

 雑誌と戦前の壮年社版にたいし戦後の諸版では三点変更された。
 主人公柏真弓が家出したあと一家が満洲に転勤するが、戦後版では北海道に書き
かえられた。要は満洲だろうが北海道だろうが真弓が簡単に会えない場所の謂いで
あろう。ちなみに『怪人二十面相』でも満洲国から帰ってきた明智小五郎に二十面
相扮する外務省の辻野が会いに来るが、戦後の版本では満洲国が某国になっている。
 他にも宝山歌劇団に入った真弓が出し物のため「可愛らしい獨逸の年に扮して
ナチスのKい團服」を着たが、戦後版ではそこの個所は省かれた。
 一番大きな変更箇所として真弓がペンギン洋品店で池見房子を助ける話があるが、
戦後の版本では池見房子が完全に登場しなくなったため三十ページ強削られた。
 また妹の名前は雑誌と壮年社版が倭文子(しづこ)、東光出版社版と『少女小説
西条八十選集第三巻』がしづ子、偕成社版がしず子。



悲しき草笛

探偵物を書く以前の過渡期の佳作



掲載誌不明
単行本出版より後に「少女ブック」昭和27年9月号〜28年6月号に連載。

単行本
左から
東光出版社 昭和23年4月30日
東光出版社 少女小説西條八十選集第三巻 昭和26年6月1日
ポプラ社 少女小説名作全集3 昭和35年10月25日
ポプラ社 ジュニア小説シリ−ズ13 昭和42年11月30日



 戦災で見よりのない若葉は島の孤児院で他の孤児の面倒を見つつも事務長の姪の
頼子の意地悪に耐える日々を送っていた。
そんなある日、孤児院が閉鎖されることとなり、若葉は東京へ奉公にいく。ところ
が、その奉公先にはあの頼子が養女として暮らしていた。さらにそこの主人は島を
尋ねたときに具合が悪くなり若葉が介抱したことのある老人であった。実は若葉の
親切に感動した老人が孤児院に若葉を養女にもらいたいと頼んだところ、事務長が
姪可愛さのため老人の目の悪いことにつけこみ騙して、頼子を養女にさせていたの
であった。

 古い作品だが『天使の翼』よりはずっと後に書かれ、まだ化石にまではなってい
ないので中途半端に古臭く今読んでも夢中になれる話ではない。それでも読者を飽
きさせないストーリーテリングはさえている。
昭和42年に新装版が出版されたが巻末の宣伝には吉屋信子、北条誠、横山美智子
・・・と戦前・戦後に活躍した作家の作品が並んでいる。
戦前の少女小説では小公女や家なき子のように、苦労を重ね放浪した末幸せになる
のが読者に受けるパターンだそうだが、昭和42年がその手の話が受けた(少なく
とも編集者が受けるとふんだ)ギリギリ最後の時代だろう。さすがにこの時代では
誘拐されてサーカスに売り飛ばされる話や、伴天連の妖術ネタ、敵の女賊の名前が
お玉やお蘭ということはないようだが。


長崎の花売娘

地方情緒たっぷり。楽しく笑えるユーモア物



少女ロマンス 昭和24年8月号〜25年9月号

単行本
偕成社 昭和25年12月30日

(「アパートの秘密」昭和25年少女クラブ1月号〜3月号と「アルプスの虹」昭和25年ひまわり 臨時増刊号(少女小説特集)を収録)

 飛鳥井信子は冷たい両親の仕打ち中学にも進学できず、昼は花売り夜は家の飲み
屋を手伝う毎日だった。そんなある日、常連客のすりの源三が散歩を無理強いし、
両親すら止めないことに爆発し家を飛び出してしまう。そこをいつも花を買ってく
れる令嬢の北畠香津枝に出会う。慰める香津枝は自分と信子の目鼻立ちがそっくり
なのに気づき、妙なことを思いつく。
 互いの服を取り換え髪型も変えて、お互いの家に入れ替わって暮らすというのだ。
こうして、とまどう信子をよそに勝手に話を進める香津枝のマイペースな行動がは
じまった。

 戦前にも「涙のアヴェマリア」なるユーモア物(当時の言葉を使えばユウモア小説、
滑稽小説、諧謔小説、軽快小説)はあったが、西条作品には珍しい笑える作品。新幹
線もテレビもない時代の読者のため長崎の風物をちりばめ、ピアノやドレスのある暮
らしの深窓の令嬢になれるシンデレラ願望を擬似体験させるサービスもしっかりある。
 北畠香津枝のキャラが生き生きしているのが魅力。貧乏な生活を楽しみ、すりの源
三にちょっかいを出すマイペースな行動が楽しい。信子は信子でなれない令嬢暮らし
に、いつボロをだすかと冷や冷やするところが愉快に書かれている。
 ほかにも信子の花売りを助ける勝太郎少年や香津枝にほれた弱みで手玉に取られ
る竹野富麿など味のあるキャラが出てくる。そしてこのキャラたちが、ヘロインの
密輸に手を染める源三とかかわる冒険物となり、お膳立てがにぎやかになっている。


荒野(あれの)の少女

戦前期の最終作



少女倶楽部 昭和14年1月号〜15年5月号

単行本
大日本雄弁会講談社 昭和15年4月20日
同盟出版社 昭和22年4月30日
東光出版社 昭和24年7月20日
ポプラ社 昭和27年11月30日(中)
ポプラ社 少女小説文庫4 昭和38年1月10日(右)



 黒木美鈴は荒野の灯台守として働く両親と貧しいながらも幸せに暮らしていた。
ところが父親が事故で亡くなり、残された母子は海辺の村で暮らすことになった。
失意の日々をおくっていたが、幸いにも村の篤志家霞老人に気に入られ、その使用
人の無愛想ながらも善良な力松少年と共にのどかな日々をおくることになった。だ
が、霞老人が海難で帰らぬ人となった。
 こうして暮らしに困った美鈴がいくことになった奉公先は《烏ばあさん》なる因
業な金貸しであった。だが烏ばあさんの美鈴への仕打ちのみならず因業な商売のや
り方に耐え切れなくなった。といって家に逃げれば累が及ぶため東京へ逃げること
にした。そして途中でであったサーカスのライオン使い五郎と出会いサーカスで働
くこととなった。


 この作品は「こうやのしょうじょ」「あれののをとめ」と間違って紹介されるこ
とがあるが、「あれののしょうじょ」(《少女倶楽部》連載時は「あれののせうぢ
よ」)が正解。

 明治時代の唱歌に「灯台守」がある。

  こおれる月かげ 空にさえて
  真冬の荒波 寄する小島
  思えよ灯台 守る人の
  尊きやさしき 愛の心
(曲はhttp://www.hi-ho.ne.jp/momose/mu_title/toudaimori.htmを参照)

 題名とあわせて考えるとこの唱歌を元に話を荒野で暮らす少女の話にする初期構
想があったのではないかと想像している。でも僻地の三人一家だけでは物語が進行
しないので、路線変更するしかない。実際主人公が荒野にいたのははじめの二話だ
けだし。ただ、この後の展開は少女誌(少年誌でも)おなじみの誘拐されてサーカ
スに売られるネタ、家なき子のように放浪の末金持ちに救われるなど、お約束ネタ
だらけになってしまった。少女倶楽部で前回連載していた「天使の翼」もお約束ネ
タが多かったが主人公に不幸と幸福が交互に押し寄せる話に起伏をつけていた。し
かし「荒野の少女」では不幸のまま貧乏状態の話が続き、最後になってハッピーエ
ンドなので起伏に乏しい。
 この作品を最後に西條八十の戦前の児童小説の執筆はなぜか途絶えた。再開直後
は戦前の少女小説風の作品もあったが、作品の大半が探偵物となり紅涙物を書くこ
とはなかった。


あらしの白ばと

少女戦隊物の元祖



女学生の友
昭和27年9月〜29年9月(第一部)
昭和29年19月〜31年7月(悪魔の家の巻)
昭和31年8月〜33年2月(黒頭巾の巻)
昭和33年4月〜34年5月(地獄神の巻)
昭和34年6月〜35年9月号(パリ冒険の巻)

*「第一部」は便宜上こちらでで勝手に名づけただけで雑誌では何も書かれてない。

単行本
偕成社 昭和29年10月25日

*画像は《女学生の友》昭和30年7月号別冊付録「冒険小説あらしの白ばと特別大会」
*単行本は「第一部」のみ収録


(第一部)
 両親のいない大平桂子が新聞に「科学者を親類に持つ少女のみ事務員にやとう」
なる黒林製薬の奇妙な求人広告を見て応募した。桂子は簡単な仕事をあてがわれた
が、もっともらしい理由をつけられ家に帰してもらえなくなった。これは黒林一馬
が仕組んだわなだった。桂子の父がペルーで金の鉱脈見つけたことを知り、その相
続権を持つ桂子を殺さんがための芝居であった。あわや桂子が殺されんとするとき、
《白ばと組》の三少女が乗りこんできた。《白ばと組》もこの奇妙な求人広告に犯
罪のにおいを嗅ぎ取った捜査に乗り出していたのだ。かくして黒林一馬一味と《白
ばと組》による大平桂子の争奪戦が始まった。黒林一馬の手下には役者の市・のど
切りの李・上海のお蘭なる曲者がそろう。対する《白ばと組》も財力、知力、行動
力を駆使する。こうして争いは激しさを増すばかりであった。

 始め大平桂子が主役の紅涙物かと、読者をミスリードさせる。そこから一転、主
役で十六、七才のリーダー日高ゆかり、辻晴子、吉田武子による《白ばと組》登場
する。この展開は見事。
 この《白ばと組》はかなりの武闘派。敵に殴り込みをかけ、銃を撃ち、車を乗り
回し、財力のみならず警察や保安隊(自衛隊の前身)の戦車まで動かす力を振るう
スーパーガールぶりを発揮する。敵は敵で、《白ばと組》の本拠地を襲い、機関銃、
手榴弾、青酸カリまで使う手に汗握る展開。昔の話だけに突込みどころもあるが、
少女戦隊物の元祖にふさわしい作品。欲をいえば力と駆け引きだけでなく推理の要
素も取り入れてほしかった。
 ただし戦隊物として三少女がそれぞれ活躍するのは第一部のみ。作者も疲れたの
か続編は吉田武子が主役になり、後の二人は脇役になってしまったのは残念。また
最終章《パリ冒険の巻》は少年誌で連載中止になった「怪獣やしき」の話を使って
いるので雰囲気が少し違う。完結しなかった作品を使うのだから許容範囲だとは思
う。

 ここまでは誉めてきたが、「あらしの白ばと」は少年/少女探偵物にありがちな
問題点もかかえている。ここで少年/少女探偵物のパターンをあげてみる。

1両親は既に死亡
 親と一緒に暮らしていれば、主人公に「こんな危ない真似は止めろ」「学校へ行
け」というのが当然。これではお話にならないのであらかじめ両親は死なせてしま
う。
 野村胡堂(銭形平次の作者)の少年物(題名忘れた)には父親が毒を盛られ意識
不明の重態で、かわりに主人公が活躍する変化球もある。

2主人公は名探偵の助手、助手でなければ親戚が警視総監
 物語の案内役として読者と同世代の少年少女を主人公にする必要がある。といっ
ても話の都合で警官隊を動員する必要も出るが、少年/少女だけでは不可能。よっ
てこのパターンを多くの作家が使うことになる。名探偵が出てくる場合、前半は探
偵が旅行中ということにして少年/少女が活躍する口実を与え、後半で登場する名
探偵が始めからわかっていたかのように名推理を見せ付ける。

3拳銃を持っているが、まず犯人にあてない
 犯人を射殺すると、どちらが犯罪者かわからなくなり(「それ以前に拳銃不法所
持だろ」という突っ込みは無視する)
物語がそこで終わる。せいぜい犯人の手足に
あてるだけ。
 この法則を豪快に無視した少年探偵は鉄人28号の正太郎君。犯罪者の持つ銃を
弾き飛ばす神業がほとんどだが、胴を撃つこともある。恐ろしい子供である。
 『阿片王 満州の夜と霧』(佐野 眞一 新潮社)には、満洲では匪賊の襲撃があ
り中学生が護身にモーゼル銃をもっていた話が紹介されている。事実は小説より奇
なり。

4犯人はコスプレ怪人、窃盗団、スパイ組織
 江戸川乱歩の影響でコスプレ怪人の出る話の多いこと。「あらしの白ばと」は
《パリ冒険の巻》のみコスプレ怪人が登場。動機が現金の窃盗ではロマンもなく、
恨みがでは話がドロドロになるので、財宝を狙う窃盗団と戦う話になりやすい(大
人向けに書いた話を子供向けにリライトするときは、恨みが動機の話もある)。戦
前は「お国のためだ」と少年探偵が機密を狙うスパイ組織と戦う話も結構ある。

 必要性はあるが、多くの作家がこれらのパターンを使うので、お話が似通ってし
まう。「あらしの白ばと」も、日高ゆかりの伯父が警視総監、両親は空襲で死去。
続編では吉田武子だけは母親がいるが別れて暮らしてるとあるものの、詳しい説明
はなし。

 『幽霊の塔』の場合、主人公は普通の少女で恐怖に震えながらも勇気を出して生
きぬこうとするので、感情移入しやすい。ところが「あらしの白ばと」では、《白
ばと組》を保安隊の戦車まで動員するスーパーガールにしたため話が大味になって
しまった。スーパーガールにするには、キャラの魅力をうまく押し出し読者を魅了
する工夫がいる。でも、作者が力を入れているのはお話の面白さばかり。
 もっとも「キャラの魅力」はずっと後にマンガ編集者が気がついたポイントで、
当時の作家と編集者が思いつかないのはわかっている。九年も連載したのだから、
これでも読者の人気も高かったのだろうとは思う。(古い作品を漁ってもリアルタ
イムの読者の反応がはっきりせず、「らしい」「だろう」になってしまう)でも、
『人食いバラ』の小森春美、むやみな殺しはしないが必要ならためらわずに殺す敵
役の椎名魔樹・紅路兄妹など味のあるキャラが書けるだけに惜しい。今のマンガは
編集者がキャラ作りを徹底指導しているので、長期連載だと今の仲間と出会ったい
きさつや出会う前の話が描かれることが多い。でも「あらしの白ばと」では、九年
の長期連載でとうとうそういう話は出てこなかった。まあ小林少年だって明智小五
郎と出会ったいきさつや出会う前の話などまったく出てこないが。


花物語

『天使の翼』と並ぶ戦前の代表作



少女倶楽部 昭和11年3月号〜昭和12年3月号

単行本
『純情詩話花物語』 大日本雄弁会講談社 昭和12年5月7日
東光出版社 昭和22年10月31日(左)
『少女小説西條八十選集第二巻』 東光出版社 昭和25年9月25日
偕成社 昭和29年4月20日
『西条八十全集 第十二巻 少女小説』 国書刊行会 平成5年4月30日(右)

*偕成社版は「花物語」のほか「風車売りの娘」を収録

 海辺の町の女学校に美しい音楽教師花房友子が赴任してきた。歌の好きな少女水木順子は友子に憧れながらも控え目なため近づくことができなかった。そんなある日のこと、満ち潮で岩に取り残されていた友子は順子に助けられたことがきっかけで、順子の歌の才能をみいだした。順子も期待に応えるべく友子のレッスンを一心に受けた。だが幸せな日は長くは続かず、友子の健康は日に日に衰えていくのであった…「花物語・新月のちかい(雛罌粟の巻)」を初めとし、少女歌劇団・日曜学校・主人公をいじめる意地悪少女など当時の流行りネタを使い甘い文体で綴る戦前の代表作。

 吉屋信子の『花物語』が大ヒットし多くの模倣作、影響作があらわれた。国会図書館のサイトで検索してみると十人以上の作家が『花物語』なる題名で作品を書いている。雑誌掲載だけで単行本化されなかった『花物語』もあるので、もっとたくさんの作家が手がけているはずだ。ちなみに壷井栄の『私の花物語』は吉屋版に反発を憶え書いたという。

 西條八十の『花物語』も吉屋信子の模倣というのは酷だが、吉屋版があればこそできた作品だ。吉屋信子の本家『花物語』はエロティズムと紙一重の耽美な百合の世界で読者を魅了する。一方、西條八十のそれは良くも悪くもきれいにまとまっている感がある。八十が同時期の昭和11年に発表した歌謡曲《花言葉の唄》のイメージするとわかりやすい。

♪可愛いつぼみよ きれいな夢よ 乙女心に よく似た花よ…

 おかげで『美少女の逆襲―蘇れ!!心清き、汚れなき、気高き少女たちよ 』(唐沢 俊一/ネスコ発行/文藝春秋発売 )にあるところの当時の少女小説の傾向−服装はセーラー服にリボン、職業は花売り、信仰はキリスト教、病気は結核−をかなり高い点でクリアしている。
 また詩人ならでは持ち味でどの話にも必ず詩が出ててくる。いくつかは女学生が書いた詩ということになっているが出来映えは女学生ばなれしている。さすがにそこにつっこむのは野暮なので素直に楽しもう。
 戦後、西條八十の『花物語』は偕成社、吉屋信子の『花物語』はポプラ社から出ている。本家には及ばずとも西條版も人気はあったようだ。

 西條版『花物語』は少女倶楽部 昭和11年1月号に掲載された「花ものがたり(桃の花)」からはじまる。ただしこの作品は小説ではなく随筆だ。先月まで「私の好きな詩から」という随筆を連載しその流れをくんでいたのが編集部の意向か作者の都合か随筆から小説に変わったとみえる。結果「花ものがたり(桃の花)」は『花物語』のどの版本にも集録されていない。
 参考までに幻となってしまった「花ものがたり(桃の花)」を紹介しておく。もっとも『花物語』自体が今や全集でしか読めないのだが。

 作者が学生時代、奈良にいたころ道を訊くためとある家へたちよった。その日はひな祭り。家ではそのお祝いをしていたところだ。「せっかくだから学生さんもどうぞ」と、その家人からご相伴にあずかることとなった。しばらく楽しんでいたのだが、肝心のひな祭りの主賓になる女の子がどこにもいないことに気づく。訊けば、女の子はかわいそうなことに熱を出してお祝いに加わることもなく奥で寝ていたのであった。そんな昔の思い出から作った詩で随筆は終わる。

 本来の花物語は《少女倶楽部》昭和11年3月号から昭和12年3月号に連載された以下の作品。

花物語・永遠の花(ヒヤシンスの巻) 昭和11年3月号
花物語・ハムレットの幻(雛菊の巻) 昭和11年4月号
花物語・悲しみのマリア(木蓮の巻) 昭和11年5月号
花物語・思いでの詩集(勿忘草の巻) 昭和11年6月号
花物語・湖畔の乙女(百合の巻)   昭和11年7月号

(この間、作者の欧米行きのため中断)

花物語・白菊の歌(白菊の巻)    昭和11年12月号
花物語・椿の墓(椿の巻)      昭和12年1月号
花物語・雪崩と薔薇(薔薇の巻)   昭和12年2月号
花物語・新月のちかい(雛罌粟の巻) 昭和12年3月号

 ほかに「水郷の唄」(少女倶楽部 昭和12年臨時増刊号)にも副題に「花物語 あやめの巻」とあるが『花物語』の単行本のどの版にも収録されていない。この作品は雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。編集者がかってに副題をつけた可能性がある。

 単行本は数種類でている。ほとんどは《少女倶楽部》連載の九作だが、以下の二作は作品が追加されている。

『純情詩話花物語』(大日本雄弁会講談社 昭和12年5月 これが最初の単行本)
小説のほか、詩(すずらんの歌、国歌「桜」、花うり娘、ピヤノと桜草、梅の咲くころ、紅薔薇、すみれ咲く頃)を収録。

『少女小説西條八十選集第二巻』(東光出版社 昭和25年)
以下の三作が追加されている。

フリージヤ物語(白鳥(はくちょう) 昭和23年1月号)
マリア人形(少女 昭和24年8月号)
狂えるピアニスト(掲載誌不明 狂える演奏会(蝋人形 昭和24年4月)を単行本のため改作し書き下ろしたものか)

 この三作は発表時には《花物語》とは無関係だったが、単行本収録時に《花物語》としてそれぞれに「ふりーじや」、「百日草」、「すみれ」の副題がついた。元々の花物語とは違い作中に詩は一切出てこない。