おまけ 西条八十児童小説データ

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作品解説


表紙

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解説

 今や西條八十のイメージといえば、詩人。カナリヤ、毬と殿様、かたたたきなどの童謡の作詞者。東京音頭、蘇州夜曲、トンコ節、芸者ワルツ、青い山脈、王将などのヒット曲の作詞者。あとは詳しい人でもアルチュール・ランボーの研究家ぐらいのイメージを持つ程度だろうが、もう一つの顔が児童書の作家である。
 ところが今では大量の児童向け小説を書いたことは忘れられ、研究者からはうそくさいと一言で片付けられ、『西條八十全集 第十二巻 少女小説』(国書刊行会)では後期の小説はまったく収録されてない。

 おそらく前期の作品が『花物語』『天使の翼』『古都の乙女』などまだ童謡の作詞者のイメージを匂わせるものを書いているのに、後期は『青衣の怪人』『幽霊の塔』『魔境の二少女』『人食いバラ』など題名といい中身といい「歌を忘れたカナリヤは」のイメージをぶち壊すためであろう。
 後期の作品がろくでもないのかといえばむしろ逆で、ストーリーテリングで読者をぐいぐい引っ張り、手を抜くどころか飽きさせまいといろいろな趣向をこらしている純文学には遠いが上質のエンターテイメントになっている。おかげでここ数年、古書市場で偕成社とポプラ社の西條作品は高騰している。特に『人食いバラ』はマニアのあいだで評判が高く2003年に復刊されて、某キャラの暴走ぶりに読んだ人はみな引き込まれたようだ。

 西條八十の作品は昭和十五年までの前期と戦後の後期で作風が大きく変わっている。前期は《少女倶楽部》での発表が圧倒的に多く、次いで《少女の友》が多い。
 雰囲気を知るために「花物語・ハムレットの幻(雛菊の巻)」(昭和十一年四月 少女倶楽部)の一部を挙げる。

 木谷さんの美しい姿、快活な、男性的な性格には、とうからあこがれていたのですが、今といふ今、その木谷さんの美しさは、憂鬱なハムレツトといふ性格を通して、輝くばかりの光を放つかと想はれました。
じつと見つめているれい子の長い睫毛には、いつしか感激の涙さへ光つていました。
「あんな人、あんなお兄さんが欲しい。」
 れい子の胸はもう火のやうになつて、ワナワナとふるへてゐました。
 やがて、菅野さんという容色自慢のひとが扮つたオフエリアと、ハムレツトとの会話がはじまりましたが、れい子の耳にはもうほかの言葉は何ひとつ聞えず、木谷さんのきれいな声が、春の牧場に聞える羊の首の銀鈴のように、桃いろの薄靄の世界から、たゞ遠く遠く聞えてくるだけでありました。

 かなり甘い雰囲気なのがわかるだろう。ちなみに作者は当時四十五歳。酔いしれて書いているだけなら大量の作品は書けるわけがない。ここは《少女倶楽部》の読者のツボを押さえてるのであろう。事実、前期の作品は『美少女の逆襲―蘇れ!!心清き、汚れなき、気高き少女たちよ 』(唐沢 俊一/ネスコ発行/文藝春秋発売 )にあるところの当時の少女小説の傾向-服装はセーラー服にリボン、職業は花売り、信仰はキリスト教、病気は結核-をかなり高い点でクリアしている。実際、胸の病や肺病で登場人物を何人も殺している。

 面白いことに戦前の作品では登場人物がどんなに親しくなっても時代の風潮のためけっして恋愛感情ではなく思慕ということで片付けている。ちなみにキスシーン初登場は戦後の「死の巌」(昭和二四年 蝋人形新年号および2月3月合併号)。もっとも「死の巌」の文章や雰囲気をみると《少女倶楽部》の対象年齢十五歳より上らしい。《少女倶楽部》と同じ対象年齢となると、ライバル誌《少女の友》に昭和二六年連載の異色の西部物「アリゾナの緋ばら」で主人公パールが二丁拳銃のヒロイン(!)キャサリンが寝てる間にキスをし、キャサリンに熱を上げる他の娘と嫉妬の火花を散らしあう読んでるこちらがおいおいと思う百合の三角関係を書いている。

 一方戦後は江戸川乱歩の少年探偵団シリーズの影響で少年誌、少女誌で探偵物がブームになり、西條八十も《少女倶楽部》の「記者」の勧めで探偵物を書きだし、後期の作品はほとんど探偵物になった。
 ちなみに、少女戦隊物の元祖『あらしの白ばと』は主人公の三少女が拳銃をぶっ放し、敵も機関銃を使い、続編では爆弾を部屋に放り込むシーンまである派手なもの。大正のころに「マンスの秘密」と「花束の秘密」という探偵物風の作品を書いているのでもとから好きなのであろうが、時代に合わせて自分の作風を変えられる器用な面は注目に値する。

 話は変わるが『二十四の瞳』の壷井栄の書いた「『少女小説』のことなど」(新日本文学 昭和二六年二月)の一部を挙げる。(これは壷井栄全集より得たもので雑誌を直接読んだものではない)

 一九四九年の春頃のことで「少女小説」専門のその出版屋は「少女小説」の書ける作家を洗いざらい動員したと思われるほど大ぜいの作家に「少女小説」を書かせ、私のところにも注文にきたのだった。少女小説はいくらだしても売れるといいながらその本屋は売れるコツを教えてくれた。お涙頂戴であるとこが第一の条件だが、結果は必ず幸福になること。作中に出てくる病人は肺病であること、怪我をした場合などは少女の同情をひく程度に悲惨さを避け、例えば松葉杖をつくなど。それで美しい物語をというのである。私は笑い出して首をふった。美しい物語はかきたいが、肺病や松葉杖がどうして悲惨でないのか。松葉杖の連想は戦争と切離しては考えられぬと私が言うと、そんな風に辛く考えずに書いてくれという。結局、私の作品集を読んでもらうことにして、そういう内容のものならということにした。本屋はそれっきり姿を見せなかった。

 この文のあとでも、いい作品が安易な作品のためにどんどん消えていくだの原稿の持ち込みにいった知人がこういう真面目なものは受けないからもっと馬鹿馬鹿しいものを書いてくれといわれただのと、現在のクリエーターが嘆いていることと全く同じことを書いている。
 要はいつの時代でもグレシャムの法則とスタージョンの法則は存在するということだ。ただクズとみなす作品が別の価値観を持つことや、次世代への原動力になる場合があるのだ。事実戦前のマンガを読んでもこれで昭和三十年代中頃に子供の読み物の主役が小説からマンガに入れ替わるとはとても思えないのだから。

 売れるコツで松葉杖をつかせる。『夕月乙女』では主人公の正子が松葉杖をつくシーンがあった。この出版屋の名前がわからないのが残念だが西條八十のところにも来た可能性は高い。『西条八十著作目録・年譜』(昭和四七年 中央公論事業出版)には「昭和二二年から二三年にかけて、八十の執筆にかかる少女小説類の数多いのは、新居購入の借金返済のためである」とある。また『父・西條八十の横顔』297ページに「八十はしばしば『八束(注 長男の名)の本を買うためにどれだけ少女小説を書いたことか』と嫁につぶやいていたという」とある。こうしてみると西條八十は手っ取り早く金を稼ぐため少女小説を書いたのは確かだが、読むと手は抜いてない。
 余談ながらこの『西条八十著作目録・年譜』はミスや触れてない作品がいくつもある。関係者の名誉のために書くが、作者がきちんとしたデータを残さずに亡くなり周りの人間が四苦八苦してつくったので、仕方はない。このサイトの著作リストを作るためのたたき台にしていることは断っておく。

 八十が書く後期の探偵物の作風は次から次へと事件がおき、読者を問答無用でジェットコースターに乗せてしまう感がある。ただこの手法はアイデアの消耗がはげしいため、過去作で使ったパターンが混じることがあり、昭和30年代になると残念ながら作品の勢いが落ちてしまう。また子供の読み物の主流が小説からマンガにかわり、西條作品に限らないが単行本化されなくなってしまう。そのマンガ自体が戦前とは変わりストーリーマンガ、それも戦前の『のらくろ』とはちがう変形ゴマや集中線などを使った動的な絵のストーリーマンガが主流になった。おかげで戦前、戦後に《少女倶楽部》で描いていた長谷川町子は活躍の場を失ってしまった。
 そんな時代のなか、とうとう「悦子のぼうけん」「ばけもの紳士」では過去作の焼き直しどころか、キャラの名前をかえただけの手抜きをしてしまった。最終作「笛をふく影」になると、対象読者年齢が十一歳と低くページ数の制限があるものの出来映えはひどかった。悪役は犯罪者の弁護で儲ける悪徳弁護士。過去に弁護した人間に恩を着せただで用心棒としてこきつかう悪役のカリスマに欠けるせこい人物。物語の前半でふった伏線は最終回のキャラの会話のなかでけりをつける荒っぽいもの。「こんなもの書かないでくれ」といいたくなる出来映えであった。
 でも全盛期の作品は今読んでも面白く、「人食いバラ」のみならず、他の作品の復刊を願っている。



西条八十児童小説リスト(不完全)

このリストは 密室系に掲載されているものに加筆したもの。

このリストでは翻訳、物語詩、絵物語、童話は除外してある。
『西條八十全集 第十二巻 少女小説』の解説で少女小説とあった「破片」(昭和4年4月 令女界)と「夜の銀座」(昭和4年4月 若草)は実物を確認したところ大人向けのためリストから除外。

「島流しの犬」(大正10年10月 日本少年)(『アイアンの島廻り』内田老鶴圃 大正12年に収録)があるが童話とみなし除外。

「鬼大佐と山賊」(昭和13年9月、10月 日本少年 雑誌廃刊のため中断)は『勇将ジェラール』の簡訳のため除外。当時は許されたのだろうが雑誌には西條八十作とありコナン・ドイルの名は全く出てこない。

「仰げ護国の花‐靖国神社に祀られている女神」(昭和13年5月 少女倶楽部)は伝記のため除外。

以下は随筆のため除外。
「涙ぐましい親切」(昭和2年2月 少年倶楽部)
「美しき家族」(昭和6年7月 令女界)
「花ものがたり(桃の花)」(少女倶楽部 昭和11年1月)

また「花ものがたり(桃の花)」は『西条八十著作目録・年譜』では『少女小説西條八十選集第二巻』に集録とあるが誤記である。

「病める薔薇」(昭和4年7月 令女界)と「鈴蘭の女」(昭和13年7月 講談倶楽部)は未確認。

「花束の秘密」(大正10年4月 童話)(『西條八十全集 第6巻 童話1』国書刊行会に集録)は実質的に小説だが作者が童話としているためリストから外す。

「真間の手古奈」(昭和26年6月 女学生の友)(雑誌目次では題名「手古奈物語」)は物語詩。

作品リスト

青字は実物を確認したもの。緑字は実物を一部確認したもの。
1はかなき誓1924(大正13) 3/1 少女倶楽部 注1
2マンスの秘密1924(大正13) 8/1 少女倶楽部~14年2/1
3謎のレコード1927(昭和2)4月 日本少年
4支那少年と唐饅頭 -旅日記から-1927(昭和2)8月 日本少年 注2
5病めるカナリア1927(昭和2)11/1 少女倶楽部
6葉書ものがたり1928(昭和3)6月号 少女倶楽部
7国境の少女1929(昭和4)8/1 少女倶楽部
8小指の許嫁指輪(エンゲージ・リング)1930(昭和5)7月 少女の友 臨時増刊号夏の巻
9幸福の丘1931(昭和6)1/1 少女倶楽部 注3
10燃える真珠1933(昭和8)少女画報1月号~10月号 注4
11孝女白菊1933(昭和8)10/1 少女倶楽部 別冊付録 注5
12巡礼お鶴1934(昭和9)5/1 少女倶楽部 別冊付録 注6
13三吉馬子歌1935(昭和10)1/1 少女倶楽部 別冊付録 注7
14静寛院宮(せいくわんゐんのみや)1935(昭和10)8/1 少女倶楽部 別冊付録
15花物語・永遠の花(ヒヤシンスの巻)1936(昭和11)3/1 少女倶楽部 注8
16花物語・ハムレットの幻(雛菊の巻)1936(昭和11)4/1 少女倶楽部
17静御前1936(昭和11)4/1 少女倶楽部 別冊付録 注9
18花物語・悲しみのマリア(木蓮の巻)1936(昭和11)5/1 少女倶楽部
19花物語・思いでの詩集(勿忘草の巻)1936(昭和11)6/1 少女倶楽部
20花物語・湖畔の乙女(百合の巻)1936(昭和11)7/1 少女倶楽部
21獣の大将1936(昭和11)11月? 小学二年生~12年3月?
1937(昭和12) 小学三年生4月号?~? 注10
22花物語・白菊の歌(白菊の巻)1936(昭和11)12/1 少女倶楽部 注11
23花物語・椿の墓(椿の巻)1937(昭和12)1/1 少女倶楽部
24花物語・雪崩と薔薇(薔薇の巻)1937(昭和12)2/1 少女倶楽部
25花物語・新月のちかい(雛罌粟の巻)1937(昭和12)3/1 少女倶楽部
26天使の翼1937(昭和12)4/1 少女倶楽部~13年12/1 注12
27水郷の唄1937(昭和12)7/15 少女倶楽部 臨時増刊号 注13
28二輪のさくら1938(昭和13)2/1 少女倶楽部 注14
29涙のアヴェマリア1938(昭和13)4月 少女の友 春の臨時増刊号 注15
30三吉正太郎1938(昭和13)4月 小学一年生~13年3月
1937(昭和12) 小学二年生4月号~9月
31南の渡り鳥1938(昭和13)5/15 少女倶楽部 臨時増刊号 注16
32古都の乙女1938(昭和13) 少女の友4月号~14年5月号
33笛の音1938(昭和13)9月 少女の友 夏休み増刊号 注17
34牧場日記1938(昭和13)10/15 少女倶楽部 臨時増刊号 注18
35荒野(あれの)の少女1939(昭和14) 少女倶楽部1月号~15年5月号 注19
36グリーンの服地1939(昭和14)4月 少女の友 春の増刊号
37海は悲し1939(昭和14) 少女の友 夏の増刊号
38秋の幻想1939(昭和14)11月 少女の友
39春の流れ1940(昭和15)4月 少女の友
40フリージヤ物語1948(昭和23) 白鳥(はくちょう)1月号 注20
41虹の孤児(みなしご)掲載誌不明
42風車売(かざぐるまうり)の娘1949(昭和24)小学四年生1月号~3月号
1949(昭和24)小学五年生4月号~10月号
43悪魔博士1949(昭和24) 東光少年1月号~1949(昭和24)8月号 注21
44悲しき草笛掲載誌不明 注22
45夜霧の乙女掲載誌不明
46青い洋館掲載誌不明 注23
47夕月乙女掲載誌不明 注24
48湖畔の乙女掲載誌不明 注25
49級(クラス)の明星掲載誌不明
50死の巌1949(昭和24)蝋人形新年号および2月3月合併号
51狂える演奏会1949(昭和24)4/1 蝋人形
52潮風よ涙あらば1949(昭和24)5/1 蝋人形5月6月 合併号 注26
53奇怪な贈物1949(昭和24)7月 天馬(ペガサス) 注27
54マリヤ人形1949(昭和24) 少女8月号
55長崎の花売娘1949(昭和24) 少女ロマンス8月号~25年9月号
56狂えるピアニスト1949(昭和24)10/10 単行本書下ろしか 作品51の改作
57マドレエヌの人形
‐パリのクリスマスの想い出‐
1949(昭和24)12月 少女の友 注28
58白百合の君掲載誌不明 注29
59アパートの秘密1950(昭和25) 少女クラブ1月号~3月号 注30
60湖底の大魔神1950(昭和25) 東光少年2月号~4月号(中断) 注31
61大ゴリラと闘う
‐樽金船長冒険譚‐
1950(昭和25)少年画報4月号 注32
62にじの乙女1950(昭和25)女学生の友4月号~26年3月号 注33
63スペードの女王1950(昭和25) 少女4月号
64アルプスの虹1950(昭和25) ひまわり 臨時増刊号(少女小説特集)
65少女詩人1951(昭和26) 少女ロマンスお正月プレゼント号~6月号(中断) 注34
66アリゾナの緋薔薇1951(昭和26) 少女の友4月号~27年7月号 注35
67青衣の怪人1951(昭和26) 少女クラブ1月号~12月号 注36
68しあわせの谷1951(昭和26) よいこ三年生1月号~8月号
69幽霊の塔1952(昭和27) 少女クラブ1月号~12月号 注37
70魔境の二少女1952(昭和27) 少女の友8月号~28年10月号 注38
71あらしの白ばと1952(昭和27) 女学生の友9月~29年9月(第一部)
1954(昭和29)10月~31年7月(悪魔の家の巻)
1956(昭和31)8月~33年2月(黒頭巾の巻)
1958(昭和33)4月~34年5月(地獄神の巻)
1959(昭和34)年6月~35年9月号(パリ冒険の巻) 注39
72人食いバラ1953(昭和28) 少女クラブ1月号~12月号
73幽霊やしき1954(昭和29) 少女クラブ1月号~12月号
74なぞの紅ばら荘1954(昭和29) 少女5月号~30年5月号
75流れ星の歌1955(昭和30) 少女クラブ1月号~12月号
76わかれ道1955(昭和30) 幼年クラブ1月号~12月号
77ターザンの冒険1955(昭和30) 少学四年生2月特別号付録
78母をよぶ時計1955(昭和30) 小学四年生4月号~31年3月号
79さく花ちる花1955(昭和30) 少女ブック9月号~31年12月号
80ターザンものがたり1955(昭和30) 小学三年生4月号~31年3月号
1956(昭和31) 小学四年生4月号~32年3月号
1957(昭和32) 小学五年生4月号~12月号 注40
81怪獣やしき1956(昭和31) ぼくら1月号~7月号(中断) 注41
82怪魔山脈1956(昭和31) おもしろブック1月号~32年7月号
83すみれの怪人1956(昭和31) 少女クラブ1月号~32年6月号 注42
84青いとびら1956(昭和31) 少女クラブ夏休み増刊号
85魔法つかいニコラ博士1957(昭和32) こども家の光1月~34年3月号 注43
86赤い影ぼうし1957(昭和32) 少女クラブ7月号~33年8月号 注44
87悦子のぼうけん1958(昭和33) 小学三年生4月号~34年3月号
1959(昭和34) 小学四年生4月号~6月号 注45
88ばけもの紳士1958(昭和33) 小学五年生4月号~34年3月号 注46
89青空わかさま1958(昭和33) たのしい四年生4月号~12月号
90黒いなぞのかぎ1959(昭和34) 中学生の友一年9月号~35年3月号
1960(昭和35) 中学生の友二年4月号~10月号
91笛をふく影1960(昭和35) なかよし1月号~11月号

注1
『西条八十著作目録・年譜』(昭和47年6月1日 中央公論事業出版)では「はかなき誓ひ」とあるが雑誌を確認したところ「はかなき誓」であった。

注2
雑誌目次では題名は「唐饅頭」。

注3
雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。

注4
少女画報 昭和8年8月号のみ休載。
『西条八十著作目録・年譜』『西條八十全集 別巻 著作目録・年譜』(国書刊行会)にも触れられていない作品。
長いこと児童向け初長編は「天使の翼」と思われていたが、この作品が初長編と確認。少女誌の連載だが少女倶楽部の作品より年上の読者層を想定したよう。

注5
昭和13年4月に作曲佐々華紅、歌手豆千代の歌謡曲「孝女白菊」(コロムビア)の作詞をしている。
昭和17年8月に作曲服部良一、歌手霧島昇の歌謡曲「孝女白菊」(コロムビア)の作詞をしている。
少女倶楽部 昭和3年6月に詩「孝女白菊」を発表。
幼年ブック 昭和28年9月に物語詩「白菊ものがたり」を書くが未確認のため関連性は不明。
この話は明治21年、国文学者落合直文が東大教授井上哲次郎博士の漢詩を新体詩として書き直した「孝女白菊」が元になっている。
仔細はhttp://www.aso.ne.jp/~kouzyoshiragiku/を参照。

注6
近松門左衛門の人形浄瑠璃「夕霧阿波鳴渡」を弟子の近松半二らが改作した「傾城阿波の鳴門 巡礼歌の段」(初演 明和5年(1768年))が元となっている。
昭和12年5月に作曲佐々華紅の歌謡曲「巡礼お鶴」(コロムビア)の作詞をしている。
少女倶楽部 昭和3年6月・昭和4年10月(6年10月?)・昭和5年9月に詩「巡礼お鶴」を発表。

注7
近松門左衛門の浄瑠璃『丹波与作』が元となっている。

注8
少女倶楽部 昭和11年1月に「花ものがたり(桃の花)」を書いているが随想であり花物語シリーズと関係なし。ただし少女倶楽部では「次号に続く」とシリーズ物のように扱っている(次号には何も掲載なし)。先月まで「私の好きな詩から」という随想を連載しその流れをくんでいたのが編集部の意向か作者の都合か随想から小説に変わったとみえる。結果「花ものがたり(桃の花)」は『花物語』のどの版本にも未集録となった。
余談だが「私の好きな詩から」では二度にわたり当時無名の金子みすゞを取り上げた。金子みすゞが詩を投稿したのがきっかけで西條八十と手紙を交わすようになり、九州へいくときに会わないかと電報を打ったところ駅で赤ん坊を背負った金子みすゞに五分だけ最初で最後に会ったというみすゞファンおなじみのエピソードに触れている。

注9
『講談社の絵本 静御前』1939(昭和14)とは別物。

注10
『西条八十著作目録・年譜』には触れられていないが実在する作品。
1954(昭和29) 幼年ブック?月号~12月号に「けものの大しょう」の題で再掲載。

注11
コロムビアの依頼でアメリカ行きし、さらにベルリンオリンピック特派員の依頼を新聞社から受け前作より数ヶ月のブランク。
なお1936(昭和11)少女倶楽部8月号の「外遊に際して読者諸姉へごあいさつ」では「『待宵草』の巻でわたくしとしても力を入れて筆をとってまゐりました最中」とあるが次回作は白菊の巻であり、題名変更か没にしたものと思われる。また直前の11月号には「西條八十先生からお土産話をきく會」というインタビューが掲載された。

注12
初の長編で『花物語』とならぶ西條八十の前期の代表作。長いとこれが児童雑誌初長編と考えていたが、昭和8年6月号 少女画報連載の「燃える真珠」があった。
昭和12年少女倶楽部3月号の予告では、

○これこそ、讀む人必ず泣く、美しき愛と淸らかな涙の物語です。
○皆様あこがれの西條八十先生が、日本中の少女方のために、特に少女倶樂部に執筆される大長篇小説です。
○これを讀むことは、少女の誇(送り仮名抜けママ)であり幸福であり、萬人皆胸を躍らして愛讀されるでありませう!

おゝ喜びの日近し!
少女の皆様が待ちかねていた西條八十先生の長篇小説がいよいよ(原文繰り返し記号)始ります。西條先生も非常な意氣込みでお書き下さいます。どうぞどうぞお友達みんなに、このことをお話して四月號の出るのを待ってゐてください。

とまである。なお昭和13年少女倶楽部2月号には、

愛讀者諸嬢へ
今度の『天使の翼』はいつもよりたいへん短くてすみません。皇軍の南京入城式に列するため、急に支那へ旅行しましたので、ゆっくり筆を執る時間が無くなりました。この次は埋合せにきっと長く書くことをお約束します。
西條八十

と時代を感じさせる断りがあった。
少女ブック昭和26年9月号(創刊号)~27年3月号?にダイジェスト版掲載。

昭和32年11月1日、日本テレビにてテレビ放送。毎週金曜20時半からの30分番組、全3回。主演は松島トモ子。原作の量を考えると放送時間が短いが子細不明。

注13
雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。副題に「花物語 あやめの巻」とあるが『花物語』の単行本のどの版にも掲載されていない。

注14
この作品の作中詩が昭和13年2月軍歌「同期の桜」(コロムビア)の元となった。
「花も嵐も」(花嵐社 1997年6月号)に再録

注15
少女の友の目次では題名は「涙のアベマリア」だが作品の扉絵やノンブルのそばには「涙のアヴェマリア」とある。

注16
雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。

注17
『西条八十著作目録・年譜』からの情報だが、〈少女の友〉昭和13年8月号、8月増刊号、9月号に該当作なし。この作品は他の号に掲載された小説ではなく詩ではないかと想像する。後考を期しリストに残す。
「少女の友」昭和13年7月号にも同題の随筆を書いてとの情報があったが、該当雑誌にはなかった。

注18
雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。「花も嵐も」(花嵐社 1994年7月号)に再録。

注19
『西條八十全集 第十二巻 少女小説』(国書刊行会)の解説では「あれののをとめ」とルビが振ってあるが、雑誌を確認したところ「あれののせうぢよ」であった。
内容を詰めないまま書き出したのか、主人公が荒野にいたのは最初の二話だけ。また誘拐されてサーカスに売り飛ばされた少年ネタなど、前回同じ「少女倶楽部」に書いた『天使の翼』より古い印象。横山美智子の『嵐の小夜曲(セレナーデ)』にも旅芸人に誘拐された少女が出てくるが、誘拐されてサーカスは昔の少女小説のはやりネタ。

注20
雑誌目次にはフリーヂヤ物語、扉絵にはフリージア物語。41「虹の孤児」の原型らしい。ちなみに主人公に会う映画女優の名は高稲秀子。

注21
『西條八十全集 第十二巻 少女小説』(国書刊行会)の解説では昭和23年1月より連載開始とあるが、東光少年の創刊は昭和24年1月のため変えておく。

注22
単行本出版より後に「少女ブック」昭和27年9月号~28年6月号に連載。

注23
46「青い洋館」と48「湖畔の乙女」は同じ主人公。ただし「青い洋館」では泉マリ子、「湖畔の乙女」では泉毬子と書かれている。これは単行本で確認したもので雑誌掲載時の書き方は不明。両方の話を集録した『少女小説西條八十選集第一巻』でもマリ子と毬子で不統一。数々の事件を解決しているがその話はおって説明するとあるところをみると、シリーズ化の構想があったようだ。

注24
昭和17年5月に作曲古賀政男、歌手李香蘭の歌謡曲「夕月乙女」の作詞をしている。
また小学四年生 昭和31年4月~昭和32年3月にダイジェスト版の「夕月少女」が連載された。作者の「三井ふたば子」は西條八十の長女。ただページの制約で夕月乙女の登場人物の持ち味が出ておらず、内容からはなぜ題名が「夕月少女」なのか解らなくなってしまった。

注25
昭和17年12月に作曲早乙女光、歌手菊池章子の「湖畔の乙女」(コロムビア)の作詞をしている。昭和18年の松竹映画「湖畔の別れ」の主題歌。

注26
連載だったが雑誌廃刊のため一話で中断。

注27
「家の光」昭和34年新年号付録「明朗お楽しみブック」に再録。

注28
『西条八十著作目録・年譜』では随想とあるが小説であった。
この作品の前に、久々に「少女の友」昭和25年5月号~12月号にジャンヌ・ダルク、キュリー夫人などを扱った名作詩物語を連載。

注29
主人公滝百合子の父の名が最初に出てきた手紙では滝五郎なのに、後半では滝山三になってる。西條センセのチェック漏れであろう。

注30
この作品の前、久々に「少女クラブ」昭和24年12月号に物語詩「ジュリエットの衣装」を発表。
この「アパートの秘密」をはじめ単行本で読んで一寸単純な話だと思ったら、むべなるかな。雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。これでは単なる小説より字数制限があるだろうし。

注31
『西条八十著作目録・年譜』には触れられていないが実在する作品。次号に続くとあるが説明のないまま連載中止。この作品は70「魔境の二少女」に使われた。

注32
『西条八十著作目録・年譜』には触れられていないが実在する作品。翻訳物の雰囲気があるが現時点ではリストにとどめる。

注33
連載中の題名は「にじの乙女」だが単行本化したときには「虹の乙女」。第一話は女学生の友創刊号に掲載。最終回は花物語の一短編と同じ展開である。
「りぼん」昭和31年1月号~9月号江川みさお・画によるダイジェスト版の絵物語「にじのおとめ」を連載。

注34
昭和26年1月の少女ロマンスは新年特大号とお正月プレゼント号の二冊がある。本作品はお正月プレゼント号から連載開始。
7月号掲載無し、8月号掲載予告あれど掲載無し。少女ロマンスは8月号が最終号。

注35
連載中の題名は「アリゾナの緋薔薇」だが単行本化したときには「アリゾナの緋ばら」。第一話に「西條先生お得意の西部小説が始ります!!」とあるが、主人公パールと二丁拳銃の名手キャサリンの登場する最初で最後の異色の西部物。

注36
単行本前書きによると少女クラブの「記者」の勧めで書いた初の探偵物。血なまぐさいこと残酷なことをさけたとあるが、性にあったらしくこの時期から作風が過激になってくる。
また昭和41年なかよし9月号~42年12月号にダイジェスト版が掲載された。「原作西条八十」とあるが昭和41年なかよし8月号の予告を見ると西條八十が執筆したらしい。これは雑誌では挿絵と文が半々の文字で書いたマンガという扱いのためであろう。挿絵は石原豪人。

注37
昭和43年なかよし1月号~10月号にダイジェスト版が掲載された。「原作西条八十」とあるが西条八十が執筆したらしい。これは雑誌では挿絵と文が半々の文字で書いたマンガという扱いのためであろう。挿絵は糸賀君子。

注38
この話を読みなぜ南米にゴリラが出ると思ったが、60「湖底の大魔神」(東光少年 昭和25年3月号)を呼んで納得した。舞台が南米とアフリカ、主人公が二少女と少年であるほかは同じ筋書きであった! 従者の名前はどちらも黒獅子だし。すごく安易である。まあ話は面白いんだけど(ってフォローになってないか)
なお『西条八十著作目録・年譜』では連載開始が少女の友5月号とあるが雑誌を確認したら8月号であった。

注39
女学生の友27年8月号の予告では「赤いカーネーション(仮題)」とある。「第一部」は便宜上こちらで勝手に名づけただけで雑誌では何も書かれてない。また「悪魔の家の巻」は号によって題名が「あらしの白ばと」「続あらしの白ばと」ところころ変わっている。30年7月号のみ別冊付録「冒険小説あらしの白ばと特別大会」になっている。
話の内容は嵐のようなつらい運命にさらされる白鳩のような純情な少女の物語、とういうのはまったくのウソで 日高ゆかり率いる白ばと組の三少女が拳銃をぶっ放し悪と戦い、敵も機関銃まで持ち出す派手な話。ちなみに敵キャラは役者の市・のど切りの李・上海のお蘭…。ウーム。もしかして少女戦隊物の元祖?
悪魔の家の巻以後は白ばと組の吉田武子の活躍が目立ち、最後のパリ冒険の巻では登場する白ばと組は吉田武子だけであった。
「黒頭巾の巻」で連載は終了し、1ヶ月休みを置いてから新連載を開始する予定だった。だが以後も連載は続いた。
連載中の題名は『あらしの白ばと』だが単行本化したときには『あらしの白鳩』。

注40
この連載の前に翻訳で『ターザン物語 第1 出生の巻』と『ターザン物語 第2 帰郷の巻』(共にE.R.バローズ作、昭和29年 生活百科刊行会)がある。
小学四年生 昭和31年4月号より「ターザン物語」と改題。
また少学四年生 昭和30年2月特別号付録として77『ターザンの冒険』(E.R.バローズ作)の翻訳をしている。これは「ターザンものがたり」と同じ設定だが別作品。

注41
最後の「ぼくら」31年7月号では「8月号に続く」とあるが以後説明のないまま掲載されず。同時期他の雑誌には執筆しているので体調不良が原因ではありえず、話を作り上げてから執筆するタイプのため展開につまったものとも思えず。
なおこの話は71「あらしの白ばと(パリ冒険の巻)」に無駄なくそっくり使われた。

注42
31年12月号のみ別冊付録。

注43
この連載の前に翻訳で『魔法医師ニコラ』(G.ブースビー作、昭和30年 世界大衆小説全集第一期第七巻 小山書店)があるが、この連載との関係は不明。

注44
主人公は83「すみれの怪人」と同じ扇谷町子とすみれのジョオ。
この作品を最後に長いこと書いてきた「少女クラブ」を離れた。詩、随筆の発表も一切ない。断定できないが小説よりマンガが増えてきた「少女クラブ」の編集方針かもしれない。

注45
キャラの名前が違う程度で48「湖畔の乙女」と同じ内容。

注46
キャラの名前が違う程度で43「悪魔博士」と同じ内容。

単行本リスト

青字は実物を確認したもの。
タイトル出版社 発行年月日収録作品
1純情詩話花物語大日本雄弁会講談社 昭和12年5月7日15,16,18~20,22~25 注47
2 荒野(あれの)の少女大日本雄弁会講談社 昭和15年4月20日
同盟出版社 昭和22年4月30日
東光出版社 昭和24年7月20日
ポプラ社 昭和27年11月30日
ポプラ社 少女小説文庫4 昭和38年1月10日
37 注48
3天使の翼壮年社 昭和16年6月10日
東光出版社 昭和22年10月31日
偕成社 昭和29年6月20日
26 注49
4白菊の歌同盟出版社 昭和17年4月1日11,14,17
5古都の乙女同盟出版社 昭和17年6月1日
ポプラ社 昭和27年5月31日
東光出版社 昭和25年1月25日
32
6虹の孤児(みなしご)東雲堂新装社 昭和22年12月20日
ポプラ社 昭和29年5月31日
41
7花物語東光出版社 昭和22年10月31日15,16,18~20,22~25 注50
8悲しき草笛東光出版社 昭和23年4月30日
ポプラ社 昭和28年3月31日
ポプラ社 少女小説名作全集3 昭和35年10月25日
ポプラ社 ジュニア小説シリ-ズ13 昭和42年11月30日
44
9白菊物語日本図書通信社 昭和23年7月25日
大泉書店 昭和24年頃
11~13 注51
10夜霧の乙女東光出版社 昭和23年11月10日
ポプラ社 昭和29年11月25日
45
11夕月乙女東光出版社 昭和23年12月5日
ポプラ社 昭和29年10月5日
47
12青い洋館東雲堂新装社 昭和23年12月20日46
13湖畔の乙女東光出版社 昭和24年1月15日
ポプラ社 昭和29年8月1日
48
14白百合の君東光出版社 昭和24年11月1日
ポプラ社 昭和29年11月5日
58
15悪魔博士東光出版社 昭和25年2月5日
偕成社 昭和28年10月15日
43
16級(クラス)の明星東光出版社 昭和23年8月15日
ポプラ社 昭和28年6月25日
ポプラ社 少女小説文庫11 昭和39年8月20日
49
17少女小説西條八十選集第一巻東光出版社 昭和25年9月20日12,46,48,49
18少女小説西條八十選集第二巻東光出版社 昭和25年9月25日13,15,16,18~20,22~25,40,47,50,54,56 注52
19長崎の花売娘偕成社 昭和25年12月30日55,59,64
20虹の乙女ポプラ社 昭和26年5月20日62
21少女小説西條八十選集第三巻東光出版社 昭和26年6月1日11,26,44
22青衣の怪人大日本雄弁会講談社 少年少女評判読物選集 1 昭和27年1月15日
偕成社 昭和30年9月20日
偕成社 ジュニア探偵小説17 昭和44年9月20日
67
23幽霊の塔偕成社 昭和28年8月25日
偕成社 ジュニア探偵小説15 昭和44年9月20日
44,69
24人食いバラ偕成社 昭和29年1月20日
ゆまに書房 カラサワ・コレクション 少女小説傑作選1 平成15年11月1日
51,72
25魔境の二少女偕成社 昭和29年2月25日70
26花物語偕成社 昭和29年4月20日15,16,18~20,22~25,42
27アリゾナの緋ばらポプラ社 昭和29年8月10日66
28あらしの白鳩偕成社 昭和29年10月25日
河出書房新社 令和5年7月26日
71 注53
29幽霊やしきポプラ社 昭和30年1月20日73
30日本少年少女名作全集第二十巻・西條八十集河出書房 昭和30年4月30日32,67 注54
31謎の紅ばら荘ポプラ社 昭和30年5月5日5,38,54,74
32流れ星の歌ポプラ社 昭和31年1月15日75
33西條八十全集 第十二巻 少女小説国書刊行会 平成5年4月30日2,12,15,16,18~20,22~25,32,36,37,39,56
34あらしの白ばと
赤いカーネーションの巻
盛林堂ミステリアス文庫 平成27年12月7日71 注55
35あらしの白ばと
悪魔の家の巻
盛林堂ミステリアス文庫 平成28年11月25日
36あらしの白ばと
黒頭巾の巻
盛林堂ミステリアス文庫 平成29年12月30日
37怪魔山脈盛林堂ミステリアス文庫 平成30年6月30日82,90 注56
38少年少女奇想ミステリ王国1 西條八十集
人食いバラ 他三篇
戎光祥出版 平成30年8月20日67,70,72,83 注57
39あらしの白ばと
地獄神の巻・パリ冒険の巻
盛林堂ミステリアス文庫 平成30年12月25日71 注55
少女小説西條八十選集第四巻(虹の孤児、荒野の少女、死の巌)
少女小説西條八十選集第五巻(白百合の君、古都の乙女)
は刊行予定のみで出なかった模様。なお四巻の死の巌は二巻に収録されている。

注47
小説のほか、詩(すずらんの歌、国歌「桜」、花うり娘、ピヤノと桜草、梅の咲くころ、紅薔薇、すみれ咲く頃)を収録している。

注48
東光出版社のみ題名は「こうやのしょうじょ」。

注49
壮年社版は昭和16年6月に出たが8月にはもう16刷がでている。
雑誌と戦前の壮年社版にたいし戦後の諸版では三点変更された。
主人公柏真弓が家出したあと一家が満洲に転勤するが、戦後版では北海道に書きかえられた。要は満洲だろうが北海道だろうが真弓が簡単に会えない場所の謂いであろう。ちなみに『怪人二十面相』でも満洲国から帰ってきた明智小五郎に二十面相扮する外務省の辻野が会いに来るが、戦後の版本では満洲国が某国になっている。
他にも宝山歌劇団に入った真弓が出し物のため「可愛らしい獨逸の靑年に扮してナチスの黑い團服」を着たが、戦後版ではそこの個所は省かれた。
一番大きな変更箇所として真弓がペンギン洋品店で池見房子を助ける話があるが、戦後の版本では池見房子が完全に登場しなくなったため三十ページ強削られた。
また妹の名前は雑誌と壮年社版が倭文子(しづこ)、東光出版社版と『少女小説西條八十選集第三巻』がしづ子、偕成社版がしず子。

*未確認情報だが少年講談社(仔細不明)、春歩堂(昭和27年8月)からも出ているらしい。
*壮年社版はhttp://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1170018で閲覧可能。

注50
『西條八十全集 第十二巻 少女小説』のに解説よれば、同じ東光出版社の昭和24年10月10日版は40「フリージヤ物語」、54「マリヤ人形」、56「狂えるピアニスト」を収録。だが現時点で三作の追加収録された版本は未確認。

注51
『西條八十全集 第十二巻 少女小説』の解説では14「静寛院宮」を収録しているとあるが、実物を確認したところ未集録。

注52
収録された40「フリージヤ物語」、54「マリヤ人形」、56「狂えるピアニスト」は「花物語」のシリーズになり、それぞれに「ふりーじや」、「百日草」、「すみれ」の副題がついた。

注53
連載終了は女学生の友昭和35年9月号だが単行本は昭和27年9月~29年9月の分だけを掲載した。

注54
他に少女純情詩集を集録。

注55
赤いカーネーションの巻 女学生の友 昭和27年9月~29年9月
悪魔の家の巻 同誌 昭和29年10月~31年7月
黒頭巾の巻 同誌 昭和31年8月~33年2月
地獄神の巻 同誌 昭和33年4月~34年5月
パリ冒険の巻 同誌 昭和34年6月~35年9月号

副題「赤いカーネーションの巻」のみ復刊時に命名されたもので、作者の命名ではない。
偕成社版とは違い、雑誌連載時の作りを重視した構成。古書店から出た各限定二百部の出版物でISBNはない。

注56
古書店から出た限定二百部の出版物でISBNはない。

注57
叢書として続巻の刊行予定があったが、この巻だけで刊行中止。



作品解説



はかなき誓
幽霊の塔
人食いバラ
天使の翼
悲しき草笛
長崎の花売娘
荒野の少女
あらしの白ばと
花物語
夕月乙女
怪魔山脈
魔境の二少女





はかなき誓

デビュー作

少女倶楽部 大正13年3月号
単行本未収録

デビュー作ということで紹介しておきます。

 泰子は、友人や妹から最近自分にそっくりな人を見たといわれるようになっ
た。疑問に思いつつも会ってみたいと思っていたある日のこと、街でその相
手に出会ってしまう。容姿はうりふたつなうえ、着ている物まで同じなため
二人は驚くばかりであった。
 相手の名前は河野かをる。昨年の関東大震災で下町から引っ越してきたの
だという。泰子とかをるはこの偶然に喜び、「いいお友達になりましょう」
と互い指輪を交換するのであった。

大正13年の少女倶楽部なんてまず見ることができないでしょうから、結末
を書きます。
(ネタバレ開始)
 そこへ不意に突っ込んできたトラックに跳ね飛ばされる二人。泰子の妹が
慌てて駆けつけたが、二人はこときれていた。顔も服も同じため、どちらが
どちらか判らず、周りの人々は困り果てたが、指輪だけが違うことに気付い
た。
 こうして泰子とかをるは間違って互いの家の墓に葬られることになった。
それでも、二人は天国で仲良くしていることだろうと話は結ばれる。
(「当時だって指紋鑑定はできるだろ」とつっこんではいけない)

(ネタバレ修了)

 ほのぼのな話といっていいのか? まあ昔の作品だし。


幽霊の塔

黒岩涙香風のサスペンスと冒険



昭和27年少女クラブ1月号~12月号連載

単行本
左から
偕成社 昭和28年8月25日
偕成社 ジュニア探偵小説15 昭和44年9月20日
(両書とも幽霊の塔の他に青い洋館を集録)

 十五歳の三上秀子は勤め先の工場閉鎖で職を失った矢先、オカルト研究家
近藤俊二の幽霊屋敷の情報を求める新聞広告を見る。亡き母がくれた暗号文
と幽霊屋敷につながりを予感した秀子は近藤俊二に助手として雇ってもらい、
折り良く入った幽霊屋敷の情報をもとに調査に出ることとなった。
 秋田の幽霊屋敷はその名に恥じず、二人が着いた日から人間の倍の大きさ
の顔の化け物が窓から二人を覗きこみ、いつのまにか犬の惨殺死体が部屋に
持ち込まれ、次の日には犬の死骸はおろか血痕まで消えているのだ…

 一言でいえば黒岩涙香、江戸川乱歩の『幽霊塔』の西條八十風バージョン。
(時計塔の緑色の隠し扉の仕掛けなどそのまんまだし)
 作者が過去の作品で何度か使ったパターンはあるものの、薄幸の少女に次
から次へと事件がおき、読者を飽きさせないよう工夫してある。オリジナル
色が強い。復刊を願う1冊である。



人食いバラ

問答無用の暴走作品



昭和28年少女クラブ1月号~12月号連載

単行本
左から
偕成社 昭和29年1月20日
ゆまに書房 カラサワ・コレクション 少女小説傑作選1 平成15年11月1日
(両書とも人食いバラの他に狂える演奏会を集録
ゆまに書房は中西みちおのマンガ《仮面の部屋》を収録)

戎光祥出版 少年少女奇想ミステリ王国1 西條八十集 人食いバラ 他三篇 平成30年8月20日


 身寄りのない毛糸売り加納英子が屋敷の前をとおりかかると、奇妙な申し出を受けた。主人の元男爵は余命少なく財産を譲る相手もいないので、この日のこの時間に家の前を通りかかった英子に譲りたいというのだ。面食らう英子をよそに手続きは進められた。
 ところが元男爵には姪の小森春美がいた。財産をもらえるあてがはずれた春美は表向きは英子と仲良くしながら、殺してしまおうとした。はじめは車でひき殺そうとして失敗。次は精神病院から殺人鬼を脱走させて英子を襲わせるが邪魔が入り失敗。こうして春美の殺人計画はエスカーレートしていくのであった。

 復刻され高い評価を得ているこの作品。西條作品の後期の傑作だが、図書館で見たオリジナルは初版。たった一度ネットオークションにでた本も初版。どうも重版されなかったらしい。偕成社から少年物といっしょに出されてしまい、少女が主人公のため浮いてしまったことと、内容の過激さのためかもしれない。
 昭和28年少女クラブ1月号を読んだら、リボンの騎士の連載が始まり、長谷川町子の「私は車掌」(主役は性格といい顔といい髪形を変えたサザエさん)にまじって、このアナーキーな小説が載っているのに軽いめまいを覚えたぐらいだし。

 一つ間違えると怪作になるとことを上手くコントロールしている。次から次へとすさまじいアイデアと行動力を発揮する春美のキャラが強烈で、読んでいるうちにワクワクしてしまった。「英子ピンチ!」と思うどころか、「春美は次にどんなことをするんだろう」との期待のほうが強くなってしまった。本を読み終えたときには「終わっちゃうの! もっと春美の活躍が読みたかった」と思ったぐらいだ。西條先生ってサディスト?

 「人食いバラ」に限らず同時期の「青衣の怪人」「幽霊の塔」「魔境の二少女」はアイデアをたっぷり放り込み読者をジェットコースターに乗せてしまう感がある。「人食いバラ」が西條八十のピークだった。以後はアイデアを消耗したか、作品のいきおいが落ちてしまった。実をいうと「人食いバラ」を図書館で読んで、入手したいとは思ったもののできなかった。ネットオークションに出品されても数万円になりそうな予感がする。高木彬光の「骸骨島」をマニアが高木彬光婦人の許可のうえ同人誌として出した例がある。いっそ西條家から許可を取り同人出版しようかと考えていた。せめて扉絵ぐらいつけたいが、西條作品「すみれの怪人」「赤い影ぼうし」のイラストを描き、角川文庫の『時をかける少女』のイラストで有名な谷俊彦さんに依頼しようか。費用はどんだけだ。儲けようとは思わないが赤字にならないといいな。などと考えていたときに、「人食いバラ」が復刊され、わが計画は中止となった。まあ、めでたしめでたし。



天使の翼

紅涙物の戦前の代表作



少女倶楽部 昭和12年4月号~13年12月号

単行本
左から
壮年社 昭和16年6月10日(外函)
同書(中身)
東光出版社 昭和22年10月31日
東光出版社 少女小説西條八十選集第三巻 昭和26年6月1日
偕成社 昭和29年6月20日

*壮年社版はhttp://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1170018で閲覧可能。

 十五才の柏真弓は日ごろ母からの冷淡な仕打ちを悲しくも不思議に思っていた。そんなある日、寝ていたときに両親の争いを聞き、自分が本当は父の妹の娘であったことを知りショックを受ける。
 そして思い出したのがばあやが幼いころの自分に覚えさせた歌。

お星がちらちら、ゆうかりの
葉音がさらさら、鳴る濱で、
いとし母さん泣きながら
白いお船で波の上…
こどもは乳母[ばあや]におんぶして、
お船の汽笛を聴きました、
いとし母さん泣いたとて
落ちる涙も波の上


 乳母なら本当の母のことを知っているはずと考え、黙って家を去ることとなる。ところが福島の昔の住所尋ねたものの乳母は転居で行方知れず。途方にくれる真弓は人買いに騙され巷で歌をうたい金を稼ぐ日々となる。そんな日々、同じく人買いにとらわれた少年の機知で人買いから逃げ出し、白百合音楽園の柳沢晴衛に才能を見こまれ学院で暮らすこととなる。そして宝山歌劇団のトップスター月夜福子との出会いにより、真弓は紆余曲折の末、宝山歌劇団のスターへの道を歩み出すのであった。
(月夜福子は往事の宝塚スター小夜(さよ)福子がモデル)

 西條作品の主人公には十五才の少女が多いが、作者の趣味ではなく《少女倶楽部》の読者年齢なのだろう。
 あらすじからも分かるとおり、ベタで古い古いお話。でも肉がすっかり腐って骨だけの状態になってしまったので、化石を愛でるような楽しさがある。薄倖の主人公に幸福が訪れたかと思えば、また不幸が襲う。そしてまた幸福と不幸が来る。当時の読者をうまく引き込んだことだろう。80年代の大映ドラマシリーズのよう。戦後の作品にもある読者をジェットコースターに強制的に乗せるようなストーリーテリングはこのころからあった。

 西條八十による少女倶楽部の初長編であり、作者の意気込みも感じられる。なお大正13年同誌短期連載「マンスの秘密」と昭和8年少女画報連載の「燃える真珠」があり、初連載ではない。編集部の期待は大きく、昭和12年少女倶楽部3月号の予告では、

○これこそ、讀む人必ず泣く、美しき愛と淸らかな涙の物語です。
○皆様あこがれの西條八十先生が、日本中の少女方のために、特に少女倶樂部に執筆される大長篇小説です。
○これを讀むことは、少女の誇(送り仮名抜けママ)であり幸福であり、萬人皆胸を躍らして愛讀されるでありませう!

おゝ喜びの日近し!
少女の皆様が待ちかねていた西條八十先生の長篇小説がいよいよ(原文繰り返し記号)始ります。西條先生も非常な意氣込みでお書き下さいます。どうぞどうぞお友達みんなに、このことをお話して四月號の出るのを待ってゐてください。


とまであり、毎月の話の後には「眞弓の部屋」というコーナーを作り読者の感想を紹介していた。
 二年近くも連載し、読者の反応もよかったとみえるが、単行本になったのは連載が終わって二年半後のこと。

 昭和13年少女倶楽部2月号には、

愛讀者諸嬢へ
今度の『天使の翼』はいつもよりたいへん短くてすみません。皇軍の南京入城式に列するため、急に支那へ旅行しましたので、ゆっくり筆を執る時間が無くなりました。この次は埋合せにきっと長く書くことをお約束します。
西條八十


と時代を感じさせる断りがあった。

 また戦前の壮年社版の前書きには「數年前、この物語に筆をとつたころと較べると、世の中はすつかり變わつた。この物語の主人公、柏眞弓が、歌手として登場してゐるのは、今の世から見るとややふさわしからぬ感じを與えないでもないが」とある。
 戦争の影が濃くなった時代、江戸川乱歩も時局のため犯罪物が書きにくくなった。少年探偵団シリーズも二十面相が出ない宝探しがテーマの『大金塊』を書くこととなった。翌年は少年探偵団シリーズですらない冒険物『新宝島』。さらに次の年は小松竜之介と名を買え『知恵の一太郎』を書いた。実業の日本社の《少女の友》では人気絶大のイラストレーター中原淳一の絵を内務省が不健康とみなし、編集長に中原淳一を使わないか、《少女の友》廃刊かと最後通牒をつきつけた。結局、中原淳一が降板した。
 少し遅れれば『天使の翼』の書籍が出版されないこともありえた。

 雑誌と戦前の壮年社版にたいし戦後の諸版では三点変更された。
 主人公柏真弓が家出したあと一家が満洲に転勤するが、戦後版では北海道に書きかえられた。要は満洲だろうが北海道だろうが真弓が簡単に会えない場所の謂いであろう。ちなみに『怪人二十面相』でも満洲国から帰ってきた明智小五郎に二十面相扮する外務省の辻野が会いに来るが、戦後の版本では満洲国が某国になっている。
 他にも宝山歌劇団に入った真弓が出し物のため「可愛らしい獨逸の靑年に扮してナチスの黑い團服」を着たが、戦後版ではそこの個所は省かれた。
 一番大きな変更箇所として真弓がペンギン洋品店で池見房子を助ける話があるが、戦後の版本では池見房子が完全に登場しなくなったため三十ページ強削られた。おそらく出版社が「長いのでページを減らしてくれ」と依頼したのだろう。
 また妹の名前は雑誌と壮年社版が倭文子(しづこ)、東光出版社版と『少女小説西條八十選集第三巻』がしづ子、偕成社版がしず子。
 要は戦前の壮年社版が最良のテキスト。戦後の版本を入手する人は承知のうえで買うように。

*壮年社版はhttp://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1170018で閲覧可能。

 そして意外な話だが、天使の翼はテレビ放送されていた。日本テレビにて昭和32年11月1日から毎週金曜20時半からの30分番組、全3回。主演は松島トモ子。当時の新聞のテレビ欄には確かに「『天使の翼』西條八十原作」とあるが、原作の量を考えると放送時間が短い。あまりに古い時代なので映像は残っていないだろう。検証は無理。おそらく内容をかなり省略したものだろう。



悲しき草笛

探偵物を書く以前の過渡期の佳作



掲載誌不明
単行本出版より後に「少女ブック」昭和27年9月号~28年6月号に連載。

単行本
左から
東光出版社 昭和23年4月30日
東光出版社 少女小説西條八十選集第三巻 昭和26年6月1日
ポプラ社 昭和28年3月31日
ポプラ社 昭和32年・重版
ポプラ社 ジュニア小説シリ-ズ13 昭和42年11月30日



 戦災で見よりのない若葉は島の孤児院で他の孤児の面倒を見つつも事務長の姪の頼子の意地悪に耐える日々を送っていたそんなある日、孤児院が閉鎖されることとなり、若葉は東京へ奉公にいく。ところが、その奉公先にはあの頼子が養女として暮らしていた。さらにそこの主人は島を尋ねたときに具合が悪くなり若葉が介抱したことのある老人であった。実は若葉の親切に感動した老人が孤児院に若葉を養女にもらいたいと頼んだところ、事務長が姪可愛さのため老人の目の悪いことにつけこみ騙して、頼子を養女にさせていたのであった。

 古い作品だが『天使の翼』よりはずっと後に書かれ、まだ化石にまではなっていないので中途半端に古臭く今読んでも夢中になれる話ではない。それでも読者を飽きさせないストーリーテリングはさえている。
 昭和42年に新装版が出版されたが巻末の宣伝には吉屋信子、北条誠、横山美智子…と戦前・戦後に活躍した作家の作品が並んでいる。
 戦前の少女小説では小公女や家なき子のように、苦労を重ね放浪した末幸せになるのが読者に受けるパターンだが、昭和42年がその手の話が受けた(少なくとも編集者が受けるとふんだ)ギリギリ最後の時代だろう。さすがにこの時代では誘拐されてサーカスに売り飛ばされる話や、伴天連の妖術ネタ、敵の女賊の名前がお玉やお蘭ということはないようだが。


長崎の花売娘

地方情緒たっぷり。楽しく笑えるユーモア物



少女ロマンス 昭和24年8月号~25年9月号

単行本
偕成社 昭和25年12月30日

(「アパートの秘密」昭和25年少女クラブ1月号~3月号と「アルプスの虹」昭和25年ひまわり 臨時増刊号(少女小説特集)を収録)

 飛鳥井信子は冷たい両親の仕打ちで中学にも進学できず、昼は花売り夜は家業の飲み屋を手伝う毎日だった。そんなある日、常連客のすりの源三が散歩を無理強いし、両親すら止めないことに爆発し家を飛び出してしまう。そこをいつも花を買ってれる令嬢の北畠香津枝に出会う。慰める香津枝は自分と信子の目鼻立ちがそっくりなのに気づき、妙なことを思いつく。
 互いの服を取り換え髪型も変えて、お互いの家に入れ替わって暮らすというのだ。こうして、とまどう信子をよそに勝手に話を進める香津枝のマイペースな行動がはじまった。

 戦前にも「涙のアヴェマリア」(※)なるユーモア物(当時の言葉を使えばユウモア小説、滑稽小説、諧謔小説、軽快小説)はあったが、西條作品には珍しい笑える作品。新幹線もテレビもない時代の読者のため長崎の風物をちりばめ、ピアノやドレスのある暮らしの深窓の令嬢になれるシンデレラ願望を擬似体験させるサービスもしっかりある。
 北畠香津枝のキャラが生き生きしているのが魅力。貧乏な生活を楽しみ、すりの源三にちょっかいを出すマイペースな行動が楽しい。信子は信子でなれない令嬢暮らしに、いつボロをだすかと冷や冷やするところが愉快に書かれている。
 ほかにも信子の花売りを助ける勝太郎少年や香津枝にほれた弱みで手玉に取られる竹野富麿など味のあるキャラが出てくる。そしてこのキャラたちが、ヘロインの密輸に手を染める源三とかかわる冒険物となり、お膳立てがにぎやかになっている。


「涙のアヴェマリア」は少女歌劇団に夢中で劣等生の主人公に、父親が腹を立て雇った家庭教師が期待はずれのブ男なので追い出し作戦を企てるがことごとく失敗するという話。


荒野(あれの)の少女

戦前期の最終作



少女倶楽部 昭和14年1月号~15年5月号

単行本
大日本雄弁会講談社 昭和15年4月20日
同盟出版社 昭和22年4月30日
以下画像左から
東光出版社 昭和24年7月20日 ※この版のみ題名「こうやのしょうじょ」
ポプラ社 昭和27年11月30日
ポプラ社 昭和33年・重版
ポプラ社 少女小説文庫4 昭和38年1月10日



 黒木美鈴は荒野の灯台守として働く両親と貧しいながらも幸せに暮らしていた。ところが父親が事故で亡くなり、残された母子は海辺の村で暮らすことになった。失意の日々をおくっていたが、幸いにも村の篤志家霞老人に気に入られ、その使用人の無愛想ながらも善良な力松少年と共にのどかな日々をおくることになった。だが、霞老人が海難で帰らぬ人となった。
 こうして暮らしに困った美鈴がいくことになった奉公先は《烏ばあさん》なる因業な金貸しであった。だが烏ばあさんの美鈴への仕打ちのみならず因業な商売のやり方に耐え切れなくなった。といって家に逃げれば累が及ぶため東京へ逃げることにした。そして途中でであったサーカスのライオン使い五郎と出会いサーカスで働くこととなった。

 この作品は「こうやのしょうじょ」「あれののをとめ」と間違って紹介されることがあるが、「あれののしょうじょ」(《少女倶楽部》連載時は「あれののせうぢよ」)が正解。ただし東光出版社版だけ「こうやのしょうじょ」となっている。

 明治時代の唱歌に「灯台守」がある

  こおれる月かげ 空にさえて
  真冬の荒波 寄する小島
  思えよ灯台 守る人の
  尊きやさしき 愛の心
(曲はhttp://www.hi-ho.ne.jp/momose/mu_title/toudaimori.htmを参照)

 題名とあわせて考えるとこの唱歌を元に話を荒野で暮らす少女の話にする初期構想があったのではないかと想像している。でも僻地の三人一家だけでは物語が進行しないので、路線変更するしかない。実際主人公が荒野にいたのははじめの二話だけだし。
(間違いを犯していました。「灯台守」の曲自体は明治22年発表ですが、歌詞は別物。昭和22年に新たに作詞され「灯台守」なる題名がつけられたとのこと)
 ただ、この後の展開は少女誌(少年誌でも)おなじみの誘拐されてサーカスに売られるネタ、家なき子のように放浪の末金持ちに救われるなど、お約束ネタだらけになってしまった。少女倶楽部で前回連載していた「天使の翼」もお約束ネタが多かったが主人公に不幸と幸福が交互に押し寄せる話に起伏をつけていた。しかし「荒野の少女」では不幸のまま貧乏状態の話が続き、最後になってハッピーエンドなので起伏に乏しい。
 この作品を最後に西條八十の戦前の児童小説の執筆はなぜか途絶えた。再開直後は戦前の少女小説風の作品もあったが、作品の大半が探偵物となり紅涙物を書くことはなかった。


あらしの白ばと

少女戦隊物の元祖



女学生の友
昭和27年9月~29年9月(第一部)
昭和29年10月~31年7月(悪魔の家の巻)
昭和31年8月~33年2月(黒頭巾の巻)
昭和33年4月~34年5月(地獄神の巻)
昭和34年6月~35年9月号(パリ冒険の巻)

*「第一部」は便宜上こちらでで勝手に名づけただけで雑誌では何も書かれてない。

単行本
画像左から
偕成社 昭和29年10月25日(第一部のみ収録。題名は『あらしの白』)
《女学生の友》昭和30年7月号別冊付録「冒険小説あらしの白ばと特別大会」
盛林堂ミステリアス文庫 副題「赤いカーネーションの巻」(第一部) 平成27年12月7日
盛林堂ミステリアス文庫 副題「悪魔の家の巻」 平成28年11月19日
盛林堂ミステリアス文庫 副題「黒頭巾の巻」 平成29年12月30日
盛林堂ミステリアス文庫 副題「地獄神の巻・パリ冒険の巻」 平成30年12月25日
河出書房新社 令和5年7月26日(第一部のみ収録)



(第一部)
 両親のいない大平桂子が新聞に「科学者を親類に持つ少女のみ事務員にやとう」との黒林製薬の奇妙な求人広告を見て応募した。桂子は簡単な仕事をあてがわれたが、もっともらしい理由をつけられ家に帰してもらえなくなった。これは黒林一馬が仕組んだわなだった。桂子の父がペルーで金の鉱脈見つけたことを知り、その相続権を持つ桂子を殺さんがための芝居であった。あわや桂子が殺されんとするとき、《白ばと組》の三少女が乗りこんできた。《白ばと組》もこの奇妙な求人広告に犯罪のにおいを嗅ぎ取り、捜査に乗り出していたのだ。かくして黒林一馬一味と《白ばと組》による大平桂子の争奪戦が始まった。黒林一馬の手下には役者の市・のど切りの李・上海のお蘭なる曲者がそろう。対する《白ばと組》も財力、知力、行動力を駆使する。こうして争いは激しさを増すばかりであった。

(第二部・悪魔の家の巻)
 白ばと組のおとめべんけい吉田武子のもとに見知らぬ少女から救いを求める手紙が届いた。自分の父が犯罪の片棒を担がされてるらしいという。主犯の理学博士向崎有人(ありんど)は世間をにぎわせる宝石盗難事件や市議の自殺にかかわるようだが証拠はない。そして向崎有人以上に恐ろしい椎名魔樹・紅路兄妹と組んで鎌倉の三角屋敷を根城に犯罪をたくらんでいるらしい。すでに白ばと組にも監視の目が光り、よけいなことに手を出すなと匿名の手紙が来た。その警告を無視した武子は三角屋敷に向かう途中、車に乗る向崎・魔樹・紅路を見かけた。すると向こうから大胆に挨拶をしてくるのだ。肝の据わった目的不明の犯罪一味を相手にした攻防戦がはじまろうとしていた。

(第三部・黒頭巾の巻)
 黒頭巾の一団が犯罪者を襲い行方不明にしてしまう事件が頻発していた。この黒頭巾組の正体こそ白ばと組だった。これまでよう犯罪者が動いてから対応せず、積極的に犯罪者を狙い島流し(!)にしているのだ。そんなある日、偽札作りの一味を壊滅させた。この一味に指示していた昭和金融会社はほかにも株価操作を狙った製鉄所爆破を企てる妖しい会社であった。昭和金融会社の謎の社長こそ前回の「悪魔の家の巻」の主犯椎名魔樹ではないかと、白ばと組は捜査を始めた。深夜の社長室に潜入したはいいが、いつの間にか扉の鍵が閉められ閉じ込められた。そして何者かが爆弾を室内に放り込んだ!

(第四部・地獄神の巻)
 都内で何者かが通りすがりの人間に札束を押し付け、後からその札束を強奪する妙な事件が何度もおきていた。奇妙なことにどの紙幣の裏にも地獄の神ジェードの判が押してあった。白ばと組リーダー日高ゆかりは捜査で札束を入手したが、何者かに誘拐された。そして参謀辻晴子も肩を銃で撃たれ負傷した。ゆかりが気づくとどこかの地下室に監禁されていた。建物の弱い個所を壊して脱獄し、出口を探しているうち、金色のジェードの巨像が鎮座する大部屋で黒装束の人々が祈っている異様な光景にでくわした。

(第五部・パリ冒険の巻)
 白ばと組のおとめべんけい吉田武子は柔道のイベントでロンドンへいくついでに、あこがれのパリによってみた。ムードンの森で迷っているとふいに絶叫を耳にした。声のした方角にある怪しげな屋敷の内部は無残に荒らされ男の死体が横たわっていた。その屋敷から美しい少女がすすり泣きながら出て行った。武子は奇怪な事件に首を突っ込んでしまったのだ。

 始め大平桂子が主役の紅涙物かと、読者をミスリードする。そこから一転、主役で十六、七才のリーダー日高ゆかり、辻晴子、吉田武子による《白ばと組》が登場する。この展開は見事。
 この《白ばと組》はかなりの武闘派。敵に殴り込みをかけ、銃を撃ち、車を乗り回し、財力のみならず警察や保安隊(自衛隊の前身)の戦車まで動かす力を振るうスーパーガールぶりを発揮する。敵は敵で、《白ばと組》の本拠地を襲い、機関銃、爆弾、青酸カリまで使う手に汗握る展開。昔の話だけに突込みどころもあるが、少女戦隊物の元祖にふさわしい作品。欲をいえば力と駆け引きだけでなく推理の要素も取り入れてほしかった。
 ただし戦隊物として三少女がそれぞれ活躍するのは第一部のみ。作者も疲れたのか続編は吉田武子が主役になり、後の二人は脇役になってしまったのは残念。また最終章《パリ冒険の巻》は少年誌で連載中止になった「怪獣やしき」の話を使っているので雰囲気が少し違う。完結しなかった作品を使うのだから許容範囲だとは思う。

 そして《女学生の友》昭和29年新年号では作者自ら作詞した「白ばと組の歌」が掲載された。作曲者は古関裕而。以前から八十と組んで数々の歌謡曲を送りだした黄金コンビだ。引用という形でで雑誌のページはここに掲載できる。ただしこの曲全体をMIDIやWAVファイルにして発表すると、著作権にふれるので無理。そもそもミューズから嫌われ音楽の才能がないのでMIDIにするのは無理。簡単といわれてるMIDI作成ソフトでこの楽譜を入力したが、怪しげな音になってしまった。楽譜はあるのに、どんな曲かわからなくて、とっても残念。
(クリックで拡大)


 ここまでは誉めてきたが、「あらしの白ばと」は少年/少女探偵物にありがちな問題点もかかえている。ここで少年/少女探偵物のパターンをあげてみる。

1両親は既に死亡
 親が一緒に暮らしていれば、主人公に「こんな危ない真似は止めろ」「学校へ行け」というのが当然。これではお話にならないのであらかじめ両親は死なせてしまう。
 ギャルゲーも同じことをしていることが多い。両親は海外にいて、主人公は一人暮らし。一緒に暮らしていても家庭内別居かと思うほど、両親の影が薄い。現実に複数の女の子を同時攻略すれば騒ぎになり、親から「火遊びするんじゃない」と殴られるのが普通。なるべくして両親の影は薄くなる。
 野村胡堂(銭形平次の作者)の少年物(題名忘れた)には父親が毒を盛られ意識不明の重態で、かわりに主人公が活躍する変化球もある。

2主人公は名探偵の助手、助手でなければ親戚が警視総監
 物語の案内役として読者と同世代の少年少女を主人公にする必要がある。といっても話の都合で警官隊を動員する必要も出るが、少年/少女だけでは不可能。よってこのパターンを多くの作家が使うことになる。名探偵が出てくる場合、前半は探偵が旅行中ということにして少年/少女が活躍する口実を与え、後半で登場する名探偵が始めからわかっていたかのように名推理を見せ付ける。

3拳銃を持っているが、まず犯人にあてない
 犯人を射殺すると、どちらが犯罪者かわからなくなり(「それ以前に拳銃不法所持だろ」という突っ込みは無視する)物語がそこで終わる。せいぜい犯人の手足にあてるだけ。そもそも小説はアクションの描写が難しいメディア。実力があれば派手な銃撃戦も書けなくはなが、文字の制約がある児童物ではそこだけにページを消費しきってしまう。
 この法則を豪快に無視した少年探偵は鉄人28号の正太郎君。犯罪者の持つ銃を弾き飛ばす神業がほとんどだが、胴を撃つこともある。恐ろしい子供である。
 『阿片王 満州の夜と霧』(佐野 眞一 新潮社)には、満洲では匪賊の襲撃があり中学生が護身にモーゼル銃をもっていた話が紹介されている。事実は小説より奇なり。

4犯人はコスプレ怪人、窃盗団、スパイ組織
 江戸川乱歩の影響でコスプレ怪人の出る話の多いこと。コスプレ怪人のほうがキャラの印象が強くなるメリットはたしかにあるんだけど。「あらしの白ばと」は《パリ冒険の巻》のみコスプレ怪人が登場。
 動機が現金の窃盗ではロマンもなく、恨みでは話がドロドロになるので、財宝を狙う窃盗団と戦う話になりやすい(大人向けに書いた話を子供向けにリライトするときは、恨みが動機の話もある)。戦前は「お国のためだ」と少年探偵が機密を狙うスパイ組織と戦う話も結構ある。

 必要性はあるが、多くの作家がこれらのパターンを使うので、お話が似通ってしまう。「あらしの白ばと」も、日高ゆかりの伯父が警視総監、両親は空襲で死去。続編では吉田武子だけは母親がいるが別れて暮らしてるとあるものの、詳しい説明はなし。

 『幽霊の塔』の場合、主人公は普通の少女で恐怖に震えながらも勇気を出して生きぬこうとするので、感情移入しやすい。ところが「あらしの白ばと」では、《白ばと組》を保安隊の戦車まで動員するスーパーガールにしたため話が大味になってしまった。スーパーガールにするには、キャラの魅力をうまく押し出し読者を魅了する工夫がいる。でも、作者が力を入れているのはお話の面白さばかり。
 もっとも「キャラの魅力」はずっと後にマンガ編集者が気がついたポイントで、当時の作家と編集者が思いつかないのはわかっている。八年も連載したのだから、読者の人気は高かったのだろう。(古い作品を漁ってもリアルタイムの読者の反応がはっきりせず、「らしい」「だろう」になってしまう)でも、むやみな殺しはしないが必要ならためらわずに殺す敵役の椎名魔樹・紅路兄妹や『人食いバラ』の小森春美など味のあるキャラが書けるだけに惜しい。むしろ主役より悪役の描写の方がいきいきしてるか。日高ゆかりは学校の成績のよさそうな育ちのいい良家の子女といった印象で荒事は荷が重そう。

 今のマンガは編集者がキャラ作りを徹底指導しているので、長期連載だと今の仲間と出会ったいきさつや出会う前の話が描かれることが多い。でも「あらしの白ばと」では、八年の長期連載でとうとうそういう話は出てこなかった。まあ小林少年だって明智小五郎と出会ったいきさつや出会う前の話などまったく出てこないが。

 ただ未成年をスーパーマンにして話が大味になることは戦前にも問題視されていた。少年倶楽部の編集部は少年の主人公が超人的な活躍をすると、なまじ子供なだけに話が嘘くさくなってしまうことを懸念していた。そこで江戸川乱歩に明智小五郎を少年物にも出してくれと依頼した。編集部内では乱歩なんてエログロばかり書いて少年物には不向きだとの意見もあり、この依頼は冒険だった。結果この冒険は大成功。
 このときは主人公を大人にして解決した。良くも悪くも編集部の指導が合理化されキャラの魅力で解決するのはずっと先の話。
(出典『少年探偵団読本―乱歩と小林少年と怪人二十面相』(情報センター出版局  1994年))

 ついでに書くと、偕成社版の表紙イラストを描いた辰巳まさえが『涙の小夜曲』(高橋勇作、《少女サロン》昭和30年4月号 付録)のイラストを手掛けている。
 見事に手抜きだ。



(追記)
 偕成社から単行本が出て六十余年後にまさかの新版が出版。この盛林堂ミステリアス文庫は古書店が独自の企画した限定二百部の私家版。題名は偕成社版の『あらしの白鳩』から雑誌連載時の『あらしの白ばと』に戻している。副題の「赤いカーネーションの巻」は女学生の友27年8月号の新連載予告にあった「赤いカーネーション(仮題)」が由来。「あらしの白ばと」は少女戦隊物の元祖として物好き(自分を含む)の間で知れ渡っていたようだが、この本のネット予約が始まったその日のうちに予約が殺到し受付終了! 店頭販売も二日で終わる絶好調。内容は偕成社版の復刻ではなく、掲載誌の女学生の友を参照し煽り文、「これまでのお話」、次号へのキャッチフレーズまで収録した凝った内容。復刊を計画した蘆辺拓さんによる解説によれば偕成社と女学生の友の編集者が見逃したミスも苦労のうえ修正。
 本の売れ行きで続編の出版を決める計画だったが、売れ行きがよろしくめでたく最終章まで出版された。
 それとだが、このサイト「西条八十児童小説データ」が解説でしっかり紹介されているのには驚いた。


花物語

『天使の翼』と並ぶ戦前の代表作



少女倶楽部 昭和11年3月号~昭和12年3月号

単行本
左より
『純情詩話花物語』 大日本雄弁会講談社 昭和12年5月7日(外函)
同書(中身)
東光出版社 昭和22年10月31日
『少女小説西條八十選集第二巻』 東光出版社 昭和25年9月25日
偕成社 昭和29年4月20日 *偕成社版は「花物語」のほか「風車売の娘」を収録
『西條八十全集 第十二巻 少女小説』 国書刊行会 平成5年4月30日


 海辺の町の女学校に美しい音楽教師花房友子が赴任してきた。歌の好きな少女水木順子は友子に憧れながらも控え目なため近づくことができなかった。そんなある日のこと、満ち潮で岩に取り残されていた友子は順子に助けられたことがきっかけで、順子の歌の才能をみいだした。順子も期待に応えるべく友子のレッスンを一心に受けた。だが幸せな日は長くは続かず、友子の健康は日に日に衰えていくのであった…。「花物語・新月のちかい(雛罌粟の巻)」を初めとし、少女歌劇団・日曜学校・主人公をいじめる意地悪少女など当時の流行りネタを使い甘い文体で綴る戦前の代表作。

 吉屋信子の『花物語』が大ヒットし多くの模倣作、影響作があらわれた。国会図書館のサイトで検索してみると十人以上の作家が『花物語』なる題名で作品を書いている。雑誌掲載だけで単行本化されなかった『花物語』もあるので、もっとたくさんの作家が手がけているはずだ。ちなみに壷井栄の『私の花物語』は吉屋版に反発を憶え書いたという。

 西條八十の『花物語』も吉屋信子の模倣というのは酷だが、吉屋版があればこそできた作品だ。吉屋信子の本家『花物語』はエロティズムと紙一重の耽美な百合の世界で読者を魅了する。一方、西條八十のそれは良くも悪くもきれいにまとまっている感がある。八十が同時期の昭和11年に発表した歌謡曲《花言葉の唄》をイメージするとわかりやすい。

♪可愛いつぼみよ きれいな夢よ 乙女心に よく似た花よ…

 おかげで『美少女の逆襲―蘇れ!!心清き、汚れなき、気高き少女たちよ 』(唐沢 俊一/ネスコ発行/文藝春秋発売 )にあるところの当時の少女小説の傾向-服装はセーラー服にリボン、職業は花売り、信仰はキリスト教、病気は結核-をかなり高い点でクリアしている。
 また詩人ならでは持ち味でどの話にも必ず詩が出ててくる。いくつかは女学生が書いた詩ということになっているが出来映えは女学生ばなれしている。さすがにそこにつっこむのは野暮なので素直に楽しもう。
 戦後、西條八十の『花物語』は偕成社、吉屋信子の『花物語』はポプラ社から出ている。本家には及ばずとも西條版も人気はあったようだ。

 西條版『花物語』は少女倶楽部 昭和11年1月号に掲載された「花ものがたり(桃の花)」からはじまる。ただしこの作品は小説ではなく随筆だ。先月まで「私の好きな詩から」という随筆を連載しその流れをくんでいたのが編集部の意向か作者の都合か随筆から小説に変わったとみえる。結果「花ものがたり(桃の花)」は『花物語』のどの版本にも集録されていない。
 参考までに幻となってしまった「花ものがたり(桃の花)」を紹介しておく。もっとも『花物語』自体が今や全集でしか読めないのだが。

 作者が学生時代、奈良にいたころ道を訊くためとある家へたちよった。その日はひな祭り。家ではそのお祝いをしていたところだ。「せっかくだから学生さんもどうぞ」と、その家人からご相伴にあずかることとなった。しばらく楽しんでいたのだが、肝心のひな祭りの主賓になる女の子がどこにもいないことに気づく。訊けば、女の子はかわいそうなことに熱を出してお祝いに加わることもなく奥で寝ていたのであった。そんな昔の思い出から作った詩で随筆は終わる。

 本来の花物語は《少女倶楽部》昭和11年3月号から昭和12年3月号に連載された以下の作品。

花物語・永遠の花(ヒヤシンスの巻) 昭和11年3月号
花物語・ハムレットの幻(雛菊の巻) 昭和11年4月号
花物語・悲しみのマリア(木蓮の巻) 昭和11年5月号
花物語・思いでの詩集(勿忘草の巻) 昭和11年6月号
花物語・湖畔の乙女(百合の巻)   昭和11年7月号

(この間、作者の欧米行きのため中断)

花物語・白菊の歌(白菊の巻)    昭和11年12月号
花物語・椿の墓(椿の巻)      昭和12年1月号
花物語・雪崩と薔薇(薔薇の巻)   昭和12年2月号
花物語・新月のちかい(雛罌粟の巻) 昭和12年3月号

 ほかに「水郷の唄」(少女倶楽部 昭和12年臨時増刊号)にも副題に「花物語 あやめの巻」とあるが『花物語』の単行本のどの版にも収録されていない。この作品は雑誌では小説ではなく写真物語という扱いで俳優とセットを写した写真と物語との紙芝居に近い形式。編集者がかってに副題をつけた可能性がある。

 単行本は数種類でている。ほとんどは《少女倶楽部》連載の九作だが、以下の版は作品が追加されている。


『純情詩話花物語』(大日本雄弁会講談社 昭和12年5月 これが最初の単行本)
小説のほか、詩(すずらんの歌、国歌「桜」、花うり娘、ピヤノと桜草、梅の咲くころ、紅薔薇、すみれ咲く頃)を収録。


『少女小説西條八十選集第二巻』(東光出版社 昭和25年)
以下の三作が追加されている。

フリージヤ物語(白鳥(はくちょう) 昭和23年1月号)
マリヤ人形(少女 昭和24年8月号)
狂えるピアニスト(掲載誌不明 狂える演奏会(蝋人形 昭和24年4月)を単行本のため改作し書き下ろしたものか)

 この三作は発表時には《花物語》とは無関係だったが、単行本収録時に《花物語》としてそれぞれに「ふりーじや」「百日草」「すみれ」の副題がついた。元々の花物語とは違い作中に詩は一切出てこない。


『花物語』(偕成社 昭和29年)
花物語とは別に「風車売の娘」を収録。

夕月乙女

和製『秘密の花園』?



掲載誌不明。書き下ろしか。

単行本
東光出版社 昭和23年12月5日(左)
少女小説西條八十選集第二巻 東光出版社 昭和25年9月25日(中)
ポプラ社 昭和29年10月5日(右)


 紀州の漁師町の海岸に赤ん坊が流れ着いていた。地元の夫婦に拾われたその赤ん坊は正子と名づられ、朗らかな子に育てられた。それが地元の金持ち蘭子に気に入られ、正子はその養女となった。ところが気まぐれな蘭子は正子をお人形扱いし芸事を教えても、教育はそっちのけであった。まわりからちやほやされる一方、他方からは「漁師の家の拾い子」とさげすみを受けるうちに、正子は高慢な性格となっていった。そんなある日のこと養母の蘭子は心臓発作でなくなった。そのうえまともな養子の手続きもとっていないことがわかり、正子は路頭にまようこととなった。それを見かねた蘭子の兄四條英輔が面倒を見ることにした。だがその暮らしは今まで派手な暮らしをしていた正子にはたえられないものであった。

 昭和17年5月に作者は作曲古賀政男、歌手李香蘭の歌謡曲「夕月乙女」の作詞をしている。その題名や歌詞のイメージを膨らませたのがこの作品だろう。
 この話がすごいところが主人公が高慢ちきなこと。少女小説ではうそ臭くても主人公は天使の心で振舞うのが普通なのに、定石を気持ちよく外している。性格の悪い主人公ならバーネットの『秘密の花園』なる大きな例がある。斬新な設定ではないが、珍しい。とはいえ高慢すぎると読者の感情移入が出来ないので、元はいい子だったが養母の悪影響を受けたことにしている。
 昔の少女小説は不幸に逢いながらも放浪の末に幸せをつかむか、吉屋信子の『花物語』のように情緒一辺倒の二大パターンがある。だが夕月乙女は家のなかでの話であり、放浪はしない。情緒一辺倒でもない。それなのに面白いのはキャラが立っているからだ。キャラが立つといってもステロタイプではない。養母の気まぐれな蘭子にしてもはじめは正子を人形扱いしていたのが、病弱になるにつれ母親としていつくしむようになる無理のない展開で読者を引き込む。その兄の英輔と正子の面倒を見る家庭教師は堅実で常識的にふるまうため、正子に善意の押し付けをしてしまう。英輔の二人娘藤子と智子も性格が書き分けられている。姉の藤子は正子を貧乏人と見下し、正子も高慢なのでそりが合わない。妹の智子は優しい性格で、二人の争いに困っている。智子のほうが本来の主役格の性格だ。性格劇とはいわないが、各キャラの性格によってドラマが生まれている。
 『夕月乙女』以降の作品は探偵物が増えた。探偵物でも性格わけされたキャラはいるものの、冒険が売りになるので、キャラの性格のかかわりあいによって話がすすむことはなくなってしまう。

 ネタバレしない程度に書くが、この手の話は家なき子のように本当の肉親が見つかりハッピーエンドとなるのが定石だ。ただ突っ込みたいのが、弁護士が正子と本当の肉親の血縁関係を証明したこと。なんで法律の専門家が証明できる。それも正子に会うこともなく。川端康成の『古都』になると生き別れの姉妹が出会ったが、両親はすでに亡くなり、調べる手立てもないまま物語は終わる。普通は『古都』のような展開になる。それでは年少の読者が納得しないのはわかるが突っ込みたい。

 また物語のなかに垣間見える当時の風潮が面白い。正子がみんなの前で東京ブギウギを踊ろうとすると、智子があの歌と踊りは品がよくないととめたことがある。のちの時代から見るとピンとこないかもしれない。喫茶店にいくのは不良、歌謡曲を歌うのは不良という時代。西條八十も自分が作詞した「トンコ節」「ゲイシャ・ワルツ」を作詞者を知らない人から面と向かって下品な歌といわれたことがある。また往年の人気作家横山美智子作『紅ばらの夢』でも「トンコ節」は下品な歌あつかい。逆に唄っていい歌がクリスチナ・ロセッティの「風」。ただし「風」の訳詩も西條八十だった。

 ついでながらポプラ社版のページイラストを紹介する。裸本のため表紙絵を紹介できないのが残念。


(入手できました)

 イラストレーターの山本サダは詳細不明。戦前デビューで、戦後から活躍し精力的に仕事をしていたが、短期間で消えている。本文では正子の格好はセーラー服に三つ編みとあるが、イラストでは気持ちよく無視している。当時としてはきれいな服にウェーブのかかった髪。これはイラストレーターの趣味ではなく、編集者の意向だろう。昭和29年にはセーラー服に三つ編みは時代遅れだったのか。
 通信教育の独学で絵を覚え昭和13年「少女の友 春の増刊号」にて山本貞名義でデビューと聞いたが、雑誌を見ると江田ミユキ作「港の別れ」の挿絵を山本貞名義で発表。山本貞(てい)という画家がいるが別人。昭和二十四年ごろ山本サダと改名。山本康代と名を変え一、二年後の昭和33年を最後に消えた。そのころに引退したか、亡くなったよう。

 先に触れた横山美智子の『紅ばらの夢』も山本サダがイラストを描いている。この本が復刊されたときも、山本サダやその著作権所有者とは連絡がつかなかったことが書いてあった。もし山本サダについて知っている人がいたら教えてください。



 《小学四年生》昭和31年4月~昭和32年3月にダイジェスト版の「夕月少女」が連載された。作者は西條八十の長女三井ふたば子。正直に書くと、登場人物の持ち味が出ておらず、小説のあらすじを読んでいるよう。内容からはなぜ題名が「夕月少女」なのか解らなくなってしまった。これは作者の実力のためではない。ページの制約と小学四年生のための文字の制限のため。もとからある小説を低年齢向けに書き直すときに物語の骸骨になることは他の作者でもある。



 また《女学生の友》昭和30年2月号の別冊付録に松沢のぼる作『夕月おとめ』なるマンガがある。当時の《女学生の友》には西條八十が連載をしていたので、『夕月乙女』が漫画化されていたのかと調べたら、無関係の時代物。




怪魔山脈

名探偵ジャイアン



おもしろブック昭和31年1月号~32年7月号

単行本
盛林堂ミステリアス文庫 平成30年6月30日
(「黒いなぞのかぎ」を併録)

 強力な毒薬を研究している大港三吉が知人の柔道家佐竹十吾に「殺される」と救いを求める電話を掛けてきた。佐竹がたまたま居合わせた鶴巻五郎少年と尋ねると、部屋は荒らされ、大港の姿はなかった。後から駆けつけた警官がフォックステリアの死骸に触ると右腕がよじれ絶命した。強力な毒薬にみなは驚くばかりであった。事件はそれだけですまず、佐竹と鶴巻少年を何者かが尾行しだした。もちろんそれにひるむ佐竹と鶴巻少年ではない。二人は先輩土佐太郎こと土佐犬の協力で反撃をはじめた。

 昭和31年は作者の勢いが落ちた時期なのだが、この作品は例外で面白く、また数少ない少年物でもある。紹介と感想を書こうと思ってはいた。だが単行本されず掲載誌を調べ直す手間があり書くのが後回しになっていた。それがついに書籍化されてしまった。これでは書くしかない。

 この作品を強烈にしているのが土佐犬の暴走ぶり。児童向けのミステリに登場する探偵は明智小五郎の影響が強くだいたい紳士としてふるまう。ところが土佐犬は紳士どころかジャイアン。初登場のときは後輩のアパートに無断で入り込み人のビールを勝手に飲んでいる傍若無人。普通の名探偵なら推理で解決するところを腕力で解決する。尾行してきた人間を拷問して白状させるのは当たり前。敵の下っ端を脅し、金を与えて命令するところは探偵というよりはヤクザ。そして佐竹と鶴巻少年を泳がせ、二人を尾行する人物を尾行して拠点を突きとめる。まるで知性のある原始人。

 すごいのは敵の一拠点を潰した後のこと。監禁されていた建物の持ち主の老婆に捜査陣が聞き込みをしているときに、土佐犬は酔っぱらったか歌を歌いながら老婆に抱きつき踊りだした。どこの世にセクハラをやって捜査をめちゃくちゃにする探偵がいる! ところがこれは土佐犬の奇計だった。女性の体形と家にある服が合わないことに気付き、抱き着いてウエストサイズを測り、この老婆が家の持ち主どころか敵の一味であることを見抜いた。セクハラ捜査で明智小五郎や神津恭介にはできないことをやってのけた。

 クライマックスでは鉛仕込みの棍棒(愛称マリちゃん)で忍び寄り気絶させるわ、撃ち殺すわ、敵のボスに銃を突き付けて部下を脅すわ。探偵ではなく水滸伝のキャラだ。初の探偵物『青衣の怪人』を書いたころは、血なまぐさいこと残酷なことをさけたというのに…。人は変わるものだ。

 土佐犬の大活躍で割を食ったのが鶴巻少年。読者と同世代で主役として物語の案内役を勤めるのが定石なのに、出番が少なく主要キャラの一人になってしまった。見せ場はハンカチの殴り書きから毒薬の隠し場所を見つけたことと、スケッチの場所を探すふりをして敵の拠点を見つけたことぐらい。初代ウルトラマンのホシノ少年の位置づけだ。そうそうもう一人割を食ったのが犯罪組織のボス。土佐犬がすごいぶん、ボスのキャラが薄っぺらになったのが残念。

 余談だが『天使の翼』や『人食いバラ』にもフォックステリアが出てくる。金持ちの飼う犬というイメージがあったのか? 探偵物ではまず殺されるので、西條先生がフォックステリアを好きなふうでもない。


魔境の二少女

少女版インディージョーンズ



少女の友昭和27年8月号~28年10月号

単行本
偕成社 偕成社 昭和29年2月25日(左)
戎光祥出版 少年少女奇想ミステリ王国1 西條八十集 人食いバラ 他三篇 平成30年8月20日(右)

 南米奥地に咲くという黄金の蘭を求める富豪高木徳三の探検隊に二人の少女が参加していた。一人は徳三の娘の百合子。もう一人はフランス人の少女ニコレット。ニコレットは探検隊がマナウスに着いたころ同行を願い出たのだ。その両親はかつて現地で布教していた牧師夫妻だった。それが現地人の襲撃で父は死亡。母は行方知れず。ニコレットは家族の足跡を見たくここまで来たのだ。だが感傷に浸るまもなく、人食い人種(ママ)との戦闘が始まった。激しい戦闘のすえ勝利し、奥地のポンゴという謎の国で白い女神が黄金の蘭を守っているという話を得た。白い女神こそニコレットの母ではないか? 探検隊はさらに奥地へと進むが、大蛇・毒バエ・灼熱地獄・大ガニの群れがゆく手を阻む。そしてさらなる危険が待っているのだった。

 紹介したように次から次へと事件が起こり読者を巻き込んで行く。下手な作家が目まぐるしい展開を書こうものなら、小説のあらすじになり、人物描写も不足となる。読者は感情移入できないのに話だけ進んで置き去りにされる。その点『魔境の二少女』は作者の全盛期に書かれた傑作で心配無用。作者の確かな構成と表現力で個性豊かな多数のキャラが大冒険に突き進む。接近戦ではインディアンの従者黒獅子が斧をふるい、遠距離ではニコレットがライフルの腕をふるう。なんと隊長の高木徳三まで斧をふるい返り血を浴びてバーサーカーのように戦う。もう一人忘れてはならないのは料理人の有田。戦闘時は逃げ回ってばかりの役に立たないお笑い要員だ。ところが有田は名脇役。うっかりちゃかりで話が展開する。ネズミ男に近い位置づけだ。
 ただもう一人のヒロイン小百合の影が薄い。土人(ママ)の一帯を率いて指揮をすることはあるが、ニコレットほど活躍しない。題名から見るとダブルヒロインにするつもりだったのだろうが、バランスが悪くなっている。ただし読んでいるときは次から次へと事件が起き、つっこむ余裕がないので、あまり気にならない。
 秘境で次から次へと事件がおこるところはインディージョーンズ。あの映画は戦前の連続冒険活劇映画を意識したそうだ。本作の元ネタもその辺の映画にあるのだろう。

 実はこの作品は《東光少年》連載中止の「湖底の大魔神」を改稿したものだ。ここで、その内容を紹介する。
 アフリカにすむ15歳の段剣太郎は父を最近亡くし、母は昔行方不明になったままだった。知人のアランに狩りに誘われ同行すると、(アフリカなのに)虎に襲われ、激しい戦いの末剣太郎は虎を殺した。そこへたまたま出会った医者のジョンがアランの負傷を治療してくれた。ジョンの目的は奥地の底無しの湖に咲く黄金の蘭を採集することだった。その蘭の生える部落には恐ろしい生きた魔神がいるときく。そして一行は底無しの湖に着くが、その急流にさらわれた。行く手には灼熱地獄・大ガニの群れと様々な困難が待ち受けるのだった。

 従者の黒獅子は二話から登場。「説明し忘れたが旅の初めから一向に加わっている」と苦しい説明をしている。トリックスターの料理人有田は湖底の大魔神には出てこない。未完に終わった作品を完結させたいと思ったのだろう。改作は少女誌連載のため、主人公は少年から少女になった。少女が銃を撃ちまくるのは超人然として不自然と考えたのか、フランス人の少女ニコレットを加えダブルヒロインとした。そして舞台をアフリカから南米に移したため、ゴリラが南米にいる妙なことになった。魔境の二少女のほうが湖底の大魔神より話に厚みが出ている。

 ゲーム・小説・アニメの戦闘少女が戦闘では派手に戦い、日常は普通の萌える少女になることはけっこうある。でもこれは今に始まったことではない。木蘭(ムーラン)・水滸伝の一丈青扈三娘・児女英雄伝の十三妹(シーサンメイ)など戦闘美女/美少女は大昔からいる。戦闘では勇猛果敢に戦い、戦いをはなれると儒教の礼節に従う二重人格のような描写だ。うそくさいといえばうそくさいが、リアルに書くならアフリカの少年兵のような陰惨な話になってしまう。うそくさくて上等。
 とはいえあまりにうそくさくても読者が白けるのも事実。そこをどうするかは作者の腕の見せ所。だいたいは以下のパターン。

逮捕、怪我にとどめ殺さない。
ギャグにする。敵の服はズタボロ、頭はアフロだが、次の瞬間元通りになる。
敵を殺さず浄化する。
倒した敵を仲間にする。
敵はロボット・使い魔など人間でないものにする。

 本作では最後のパターンを使い、殺す相手は文明人より劣った土人(ママ)にしてしまった。昔の作家の書き方はみな似たようなものだ。乱歩も高垣眸も人種差別や障害者差別を書いている。海外でもドリトル先生が槍玉にあげられた。逆に恋愛やエロには厳しかった。なお百合は恋愛というより思慕ととらえられOKだった。
 敵の未開人には容赦はない。逆に部下になる人間には本作でも乱歩の『新宝島』でも未開人を指導してやるのが文明人の努めとの態度をとる。
 今だったらとても書けない内容だ。もし今の作家がリメイクしたとする。ニコレットが人殺しのPTSDで苦しんだり、好戦的なアマゾネスにすればぶち壊しだ。工夫がいるが全然ちがう話になるだろう。『魔境の二少女』は当時だから書けた作品だ。それだけに平成三十年の復刊には驚いた。

 このページを読む人なら知る人は多いだろうが。この『ピラミッドの秘密』はポプラ社が1961年(昭和36年)に出版した『怪盗ルパン全集』のなかの一冊。南洋一郎の翻訳というのは建前で、南洋一郎がオリジナルのルパンの話を書いてシリーズに紛れ込ませたものだ。今こんなことをすれば大炎上だろう。
 とまれこの作品でもアフリカ奥地の黒人王国に白人女王が登場する。権力は僧官が握り、あるのは権威だけ。不本意に祭り上げられ逃げられず、生き別れの娘がいる。『魔境の二少女』とかぶる設定だ! 同じ元ネタを使っているのだろうが、詳細不明。元ネタが映画なら、大昔の映画はヒット作すらフィルムが現存しないことがあるし検証不能だ。


 そしてもう一つ本作と一部似ている作品を見つけた。それが江戸川乱歩が昭和15年に少年俱楽部で連載した『新宝島』。
 主役の三少年が湖の急流にさらわれ洞窟に吸い込まれたうえ、溶岩の灼熱地獄にさらされる。『魔境の二少女』にも同じ個所がある。西條先生が『新宝島』の話を使ってしまったか(今の視点でみると盗作)。あるいは乱歩も海外の作品をかなり利用しているので、別の元ネタがあるのかもしれない



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